4.原稿事件

第32話

 階段を上って、迷路のような通路を通り、千葉さんに案内されたのは、来年公開の恋愛映画のポスターの撮影スタジオだった。

 純と、現在中学三年生だという人気女優、南方亜莉珠みなかたありすちゃんが主演する恋愛ドラマが公開されて話題になったのが去年のこと。大好評で、映画編の上映が決まったらしい。

 仕事に戻っていく千葉さんと別れたあたしは、スタジオの一番後ろのほうで、そこで働く人の多さと緊張感にまたもや唖然としていた。

たくさんの大きなカメラが囲む中に白い背景を模したスクリーンがある。その前にとびきりかわいい女の子がいて、監督さんの指示を受けながらポーズをとっていた。

 おしゃれなトップスにミニスカートを合わせていて、セミロングストレートの髪はつやつや。ぷりっとした小さな唇。大きな瞳にくるりと巻かれたまつ毛。

人気女優の亜莉珠ちゃんだ。

ふーむ。あれが女優という生き物か。テレビで見たときは漠然とかわいいなって思ってたけど、こうしてみるとまぶしいほどですな。まるでほんとうに光を放っているみたいだ。

 そのきらきらな瞳がこっちをとらえた気がしてどきっと心臓が鳴る。

 あわてて目をそらしてもう一度彼女を見たとき、その笑顔はもうカメラに向けられていた。

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