第31話
「そんな立派なもんじゃないってば。ただ買いものに行くってだけで」
「それだけじゃないよ。なんていうかさ」
斜め上の天井をにらんで頭の中からなにかをしぼりだそうとする駆くんの言葉をひきとったのは千葉さんだった。
「目に入るものすべてに素直に感動して、吸収していき、そして、できることを見つける。すばらしいことですよ。我々のことにまで気づいてくださることがその証拠です」
「あ……」
そんなふうに言われると、くすぐったい。
千葉さんの切れ長の目が細まる。
「そのような人は、きっとよい作品が生み出せると思います。がんばってくださいね」
芸能人を立派にささえている人からのなんていう優しい言葉だ。
心の中の、芸能界で見つけた神その二のカテゴリーに、あたしは千葉さんと太い筆で一筆書いた。
横では駆くんが、あぁ、そう、オレもそういうのが言いたかったんだ、となぜか悔しがっている。
笑いをかみ殺すようにしながらその様子に目を向けた千葉さんは、
「駆くん、よいのですか。『リトル・トゥインクル』は今回のエクレールのライブに一日、ゲスト出演する予定で、本日トーク内容の打ち合わせときいていますが」
言われた駆くんがいっと声を発して頭を押さえる。
「やべっ。そうだった」
にわかにかけだしたかと思うと、くるりとふり返り、
「それじゃぁね、花乃ちゃん」
軽く手をふってかけていく。まことにさわやかな去り際だ。
「あっ。あの、案内してくれて、ほんとありがとう!」
語彙力の乏しい作家志望は、あわててお礼を言うのがやっとだ。
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