第30話

「よかったら、買い物あたしに行かせてください!」

 元気よく申し出たものの、とんでもないと手をふられる。

「いえそんな。私の仕事です」

 わざと袖をまくって、遠慮は無用をアピールする。

「無理言って取材に来させてもらってるんだもん。これくらいしないと! そうすれば 千葉さん、すぐスケジュール調整のお仕事に入れますよね」

しばらく戸惑ったように目をしばたたいていたけれど、千葉さんはふいに笑って言った。 

「では、お願いできますか」

「もちろん!」

 小さなことだけど、みんなが楽しみにしているアイドルのライブを支えるマネージャーさんの大事なお仕事。

 なんだか壮大なプロジェクトのメンバーにくわわったような誇らしい気持ちになる。

 一人、力んでいると、ふふっと笑い声が上から漏れた。

「花乃ちゃんって……すごいね」

「え?」

 くるりと横を見ると駆くんがしみじみとこっちを見ていた。

 数秒遅れて意味を理解した。そしてテンパる。

「あ、あたしなんか。全然」

「だって、ここに来たの、今日初めてだろ。それなのに営業して仕事とっちゃうなんてさ。芸能人かマネージャーだったらめちゃくちゃ優秀だよ」

 ええっ。

 あんまりおおげさなほめ言葉にあわてて首をふる。

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