第28話

 藤波くんを部屋の隅の床に座らせて休ませると、純は何事もなかったかのようにメンバーの中に戻り、ダンスの稽古を再開した。

 どうなってるの。

 さっきまで厳しく怒られてたと思ったら、仲間の窮地に気づいて、対策を立て、打開する案を通しちゃった。

「さすが純さんでしょ」

 あっけにとられるあたしのとなりで、駆くんはこうした光景を見慣れているのか、

「あのままいったら、正真さんは我慢しつづけてもっと悪い事態になってたかもしれない。ぶっきらぼうのようでも、みんなのことを常に見てる。純さんのすごいところなんだ」

 うん、すごい。

 すごすぎて、その一言しかなかった。

 またしても、語彙力が追いつかない作家志望です。

 言葉が追いつかないから目で彼を追っていると、扉が静かに開いて、中から誰かが出てきた。

 スーツにネクタイを締めた男の人が、かすかに微笑んで一礼する。

「野原さんですね。一路純のマネージャーの千葉です」

 マネージャーさんか。

 芸能人について、日程の管理や細々としたお世話をするのがお仕事の人だ。

 千葉さんはすまなそうに眉をひそめた。

「先ほどはお迎えに行けず申し訳ありませんでした。急な電話が入りまして」

「あ。いえ」

 想像はしてたけど、マネージャーさんって忙しいんだな。

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