第24話

 心持ちうつむいた駆くんが小さく母さん、と呟く。

 女の人はびしっと身体ごとあたしのほうに向きなおって、

「失礼ですが、あなたは」

 威圧するようなききかたに身体が一気にこわばる。

 この人、相当怖い。

 視界にちら、と困ったような顔をしている駆くんが目に入って。

 見ず知らずのあたしを、せっかくとりついでくれようとしていたんだ。彼の好意を無駄にできない。

 ふんっと、心の中で鼻息を荒くすると、あたしは駆くんのお母さんらしき人に向きなおった。

「えっと、個人で取材に来させてもらっています。野原花乃と言います」

 個人で取材、と言ったときに細いその眉がぴくりと上がる。

 あたしの台詞には答えずに、駆くんのお母さんは眉をもう二、三ミリつり上げて駆くんを見た。

「駆はまた誰にでも話しかけて。そんな暇はないはずでしょ。あなたは早くスターにならなくちゃならないの」

 駆くんの目が不満そうに歪み、でもおとなしくうなずいた。

「わかったよ」

 そうかと思うと、ぱっとあたしの手を掴む。

「でも、困っている人を案内するくらいの時間は、僕にだってあるよね」

 はー。さすが神だ。

 言うことが違うのぅ。

 って。さっきから手首を握られてひっぱられてますけど……って、えぇっ?

 ようやく事実を認識したけれど、声も出ない。

 駆、待ちなさいとお母さんが言うより、彼のほうが早かった。

「こっちだよ。花乃ちゃん」

 あっという間に彼に連れられて、奥の階段へ走り出してしまった。

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