第23話

 同い年くらいかな? その目はぱっちりくっきりしてて、小鼻がすっと通っていて、シンプルな身なりに反して驚くほどかわいい顔立ちだ。

「ええっと……どうしてわかったの?」

 やっとのことでそう答えると、その男の子はにっこり笑った。

 整った顔がよけい華やかになる。

「僕、泉谷駆いずたにかける。よろしくね。純さんと同じ事務所の後輩なんだ」

 なんと!

 知らず背筋が伸びてしまう。

 ということはこの子も、芸能人?

 駆さん、お知合いですかと尋ねる受付のお姉さんに、純さんからきいているので、僕が案内しますとはきはきと答えてくれる。なんて頼もしいんだ。

「小説書いてるんだって? すごいな。僕なんか本読むのだって一苦労なのにさ」

「あっ、うん……」

 気さくに話しかけてくれる彼の登場にほっとしつつも、気のきいたせりふ一つ言えない。

 純ってば。小説のことほかの人に話すなんて。恥ずかしいじゃないか。この。

「どんなの書いてるの?」

「その、いろいろ……。アイドルのことも書いてて。だから今日は、取材に来たの」

 恋愛ものとはさすがに恥ずかしくて言えない。

 もごもごと口を動かすあたしと対をなすように、くっきりクリアな声が響いてくる。

「へぇ。僕も小さいころからこの世界にいるから、なんでもきいてよ」

 そんな嬉しいことを言ってくれたあとで、駆くんはさらさらの茶色がかった髪の後ろに手をあてて、

「っていっても、まだぜんぜん売れてないけどね。へへっ」

 おどけてみせるその背後から、後光が射して見える。

 アイドルで、この性格のよさ。

 この瞬間に、あたしの脳内の『神』のカテゴリーのど真ん中に、泉谷駆くんの名が彫刻刀で深く刻まれた。

「ありがとう。そう言ってもらえると、すごく助かる……」

 そう言うと、駆くんはちょっと照れたように首をかしげた。

「きみの名前は、えーっと、たしか」

 おっと、名乗り忘れるなんて、失態だ。

「ええと、野原花乃、です」

「あ、そうそう、純さんからきいたとき、かわいい名前だなって思ったんだ」

 平凡な名前をさらりとそんなふうに評して、神少年は微笑む。

「花乃ちゃんは、『リトル・トゥインクル』って中学生アイドルグループ、知ってる?」

「あ、それきいたことある!」

 デビューはたしか去年だったかな? 夏陽もときどき話題にするし、クラスでアイドルに詳しい女の子たちはよく騒いでいる。そのへんにうといあたしでもグループ名だけは知ってるくらい有名だ。が。まさかと、目の前にあるその整った顔を見つめる。

「えっ、駆くんって、『リトル・トゥインクル』のメンバーなの?」

「一応。花乃ちゃんは知らなかったか。まだまだだなぁ」

 いやいや、それはあたしが芸能界にうといだけであって!

 立派な芸能人なのにまだまだなんて、謙虚だなぁ。

 感心していると、

「駆」

 鋭い声がして、スーツ姿の厳しそうな女の人がヒールの音をさせて走り寄ってきた。

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