第18話

 あわてて口元を覆う。

 うそみたいだ。

 となりに『エクレール』の一路純がいる。

 一路純が、となりの席に腰かける。

「一流のライブ見て、今頃大はしゃぎで書いてるかと思ったけど。『エクレール』じゃ取材には不足だったか。ん?」

 一路純が、からかうようなぶしつけな目で質問してくる――。

 あたしは頭の中でいちいち言いきかせるのをあきらめた。

 やっぱりこいつは、態度がでかくて、失礼な、図書館でたまたま出会った純で十分だ。

「……ううん。全然そんなんじゃ。むしろすごかった。アイドルのライブってはじめてで」

 しぶしぶだけど、それだけは認めざるを得なくて、感想を述べる。

「想像してたのよりぜんぜんきらびやかで、わっとテンションがあがって」

 小説を書くくせに、我ながらありきたりな表現力。でも、この言葉が一番、似つかわしいと思った。

「あのあと、たくさん書けたの。でも」

 言いよどんで、少し黙る。

「でも、なんだよ」

 図書館でたまたま出会ったぶしつけな純は、サングラス越しのその目力で容赦なく追及してくる。言いたくなくて黙ってるんだ。少しは察しろと思いながら、その強い視線に耐えきれず、またもしぶしぶ口を開く。

「今日うっかり机の上に置きっぱなしにした原稿、クラスの男子に見つかっちゃって。恋愛のシーンをばっちり見られて、キモいとか恥ずかしいとか笑いの種にされて、さんざんだったんだ」

 数秒の沈黙のあと。



「はぁ? なんだそれ」

 吐き捨てるような言葉がふってきた。



「うん、やっぱりあたし、才能ないのかも。ごめん」

 知らず、目尻に液体の粒がたまる。

「せっかく、あんなすてきなもの見せてもらったのに」

 鋭い吐息とともに、右の肘を机に立て、投げ出した腕で髪をかき上げながら、また、吐き出すような言葉がふってくる。

「なにくだらねーやつのこと真に受けてるんだっつってんだよ。お前、へっぽこなうえにあほなんだな」

 ……な。

 なに?

 思わずじっとととなりをにらみかける自分を落ち着けと脳内で制する。

 もとからなにかを期待していたわけじゃない。

 なにせ相手は図書館でたまたま出会ったぶしつけで失礼で強面の純だ。

 だけどしかし。

 落ちこんでる女の子にぺっほことあほのだぶるパンチとくるか、こいつは。

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