第16話
「『お前が好きだ。一生そばにいてくれ!』だって!」
着いた教室からあざけるようなその声をきいたとき、背筋が凍りついた。
きき覚えのある台詞。
「なんだこれ」
「キモい」
数人の男子たちが丸くなって笑っているその中心の机には、見覚えのある原稿用紙の束。
たまにちょっかいを出してくるメンバーだった。
べつに、あたしにだけ特にってわけじゃない。
女子ならだれでもからかって、怒られるのすらおもしろがって、いっしょにじゃれあったりしている男子たち。
そんな彼らの他愛ない悪ふざけの一つだ。
わかってはいたけど。
「お前、こういうのキャラじゃないからやめたほうがいいんじゃね」
何気なく放たれたその言葉はとても鋭くきこえて、怒ることができない。体が動かない。
「ちょっと、なにしてるの!」
さきに動いたのはとなりにいた夏陽だった。
ずかずかと雄々しく男子たちのあいだに割って入っては、すぱっと原稿を奪いかえす。
あたしの原稿。
心をいっぱいこめて書いた、恋愛小説を。
「人のもの勝手にとって読んで笑うなんて、サイテー! 謝んなよ!」
夏陽がそう言ってくれる言葉すら耳を素通りしていく。
いつもならあたしも、文句の一つも言えていたかもしれない。
でも小説に関してだけは。
心の奥のいちばん柔らかい部分をつかれたようで。
黙ったまま、席についた。
教室の一部だけ、その場がしんと静まり返る。
授業のあと男子たちが謝りにきた言葉すら、耳の遠くで鳴って、そのままどこかへと抜けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます