2.胸張ってプライド持てよ

第14話

「ねぇ、花乃。さっきからあたしのことからかってるの?」



 翌日の月曜日。お昼休みが終わりに近づいた校舎の図書室から階段を隔てたさきにある教室への道を歩きながら、夏陽が切れ長の目をすがめてじろりとこっちを眺めた。

「ちがうよ! ほんとにほんとうなの。あたしだって信じられないよ」

 夏陽はあきれたように目を伏せると、ばさっと、ロングストレートの髪をかきあげる。

「信じられるか。図書館で出会ったグラサン男の正体が『エクレール』の純くんだったなんて」

「でも、たしかに、ステージの上にでてきたのはあいつだったんだってば」

「フェスのチラシくれた彼とたまたまちょっと似てたってだけだって。思いすごしだよ」

「うう~」

 さっきからずっとこの調子で押し問答が続いている。

「客席から見たのだって遠目だったんでしょ?」

 シャープな目元が鋭くこっちに向けられる。うーん。そう言われると、自信なくなってきたかも。

 あいつは純くんによく似た別人だったのかな?

 ひとりでうんうんうなっていると、夏陽が急に、こぶしをつくって大きくふった。

「っていうか、『エクレール』のゲリラライブがあったなら、あたしだって行きたかった! 一人だけ藤波くん生で見るなんて! ずるいぞ花乃っ」

「だ、だって、あたしだって『エクレール』が出演するって知らなかったわけだし……」

 それでも頬を膨らます夏陽に、ぱちりと両手を合わせる。

「次フェスがあったらぜったい誘うから。許して!」

「わかったよ。もう」

 ぷっと、ほっぺたから空気を吐き出すと、夏陽は今度は妙に真面目な目つきになってその頬に指をあてる。

「でも、純くん似のそのグラサン男もなかなかやるね。そんなレアライブのあるイベントのこと教えてくれるなんてさ。ひょっとして花乃に気があるんじゃない?」

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