アイドルと紡ぐ恋愛小説

第12話

　曲が終わってもなおもやまない声援に、エクレールのメンバーは手をふって答える。

　どうもありがとうと大きく一礼したあとに、リーダーの美谷島くんが口火をきる。

「最新曲『うまく歩けないきみが好き』をきいていただきました。さて、今回の音楽フェスのテーマは『ニューウェイ』。新しい道ってコンセプトにもあるとおり、未知への挑戦ということだけど、メンバーのみんなが最近はじめたものってある？」

　彼に差し向けられた順にメンバーが、それぞれ最近はじめたものについて語り出す。

　英語の資格試験勉強をはじめた藤波くんの実力はかなりのものらしい。さすがは頭脳派アイドルだ。成瀬くんはバスケにサッカーにスポーツはなんでも愛好している。愛内くんはスマホの釣りゲームにはまりだしていつでも高得点を出せるまでになったけど、実際の釣りに挑戦しに川に行ってみたら一匹も釣れなかったというオチには笑ってしまった。

　いつの間にか舞台はトークコーナーに入っていたわけだけど、それを意識することなくあたしは『エクレール』のメンバーの話にききいっていた。

「それじゃ、純は？」

　その名前をきいてどきりと心臓が音を立てる。

　美谷島くんの視線を受けてうなずいたのは、あいつ。

　まさかと思ったけど、やっぱり。

　あいつは『エクレール』のメンバー。

　一路純なんだ……！

　その長い指先をあごにあてて考えるしぐさをして、彼が口を開く。

「最近は本をよく読むかな」

「へぇ。どんな本？」

　成瀬くんの問いに純が口を開く前に、我先にと愛内くんが手を上げる。

「わかった！　車の本だ！　純すごい詳しいよね。来年になったら真っ先に免許とるって言ってたし」

　そこにかぶせて予測を述べたのは藤波くんだ。

「いや、舞台演出の本とかじゃない？　純はライブの演出も担当してるし、いつも勉強熱心だから」

　そこで純がちょっともったいぶるようにさてどうかなと笑って、答えを明かす。

「そういうのも読むけど、最近は特に……恋愛小説とか」

　メンバーだけじゃなく、観客からもえーっという声があがった。