第9話

 これは誰にも、親友の夏陽にすら言ってないけど、小説賞に応募したことも何度かある。

 どれも一次選考でだめだったけど、あきらめずに何度も応募して、いつかはデビューできたらなって思ってる。

 しぶしぶ認めると、図書館の照明を受けてか、サングラスの奥が、かすかに光った気がした。

「だろうと思った」

 机の椅子を引くと、サングラス男はがたりとそこに腰かける。

「続き」

 求めるように差し出された片手に、思わず顔を上げた。

「書くって約束すんなら、いいもん見してやるよ」

 サングラスの黒は相変わらず濃くて、その奥は見えないけれど。

 あたしにはそこに、挑戦的に笑う目が見えるような気がした。

「次の日曜の昼、ここに来いよ」

 よく見ると、手にはチラシらしきものをつまんでいる。

『音楽フェスタ・ニューウェイin貝ヶ浜公園』。そこにはそう書かれていた。

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