第6話

スニーカーの宣伝らしく、テレビ画面越しに、おしゃれな運動靴をはいた『エクレール』のメンバーの一人がポーズをとってさわやかな笑顔を向けてくる。

「わぁっ、純くんだ! かっこいい~」

 彼の名前は一路純いちろじゅん。ティーン向けの恋愛ドラマで演じた強引な柄役や、ライブや芸事にすごくストイックなことから、ファンのあいだではオレ様王子って呼ばれてるとか(これも夏陽情報だ)。

「ドラマで共演してから、女優の南方亜莉珠みなかたありすちゃんとつきあってるって噂だよね。美男美女で超お似合い」

「ふーん。そうなんだ」

「でもやっぱり一番は藤波くんかなー。きゃっ、でてきた!」

 画面に推しメンが登場したらしく、さっきまであたしの話題に熱心だった夏陽がそっちに食いついてしまったので、しかたなく一人、ぼんやり考える。

 あの失礼なグラサン男に、本音を言えば、あたしだって一言言ってやりたい。

 でも。

 数学や漢字のノートのかたわら、ガラステーブルのうえにぽつんと置かれた原稿用紙の束を見返す。

 一理あるんだよな。あいつの言うこと。

 舞台のしかけの書き方の甘さは自分でもうすうす気にかかっていた。

 アイドルのことを書くなら、もっと芸能界についてちゃんと知る必要があるだろう。

 でもどうやったらいいんだろう?

 知り合いに芸能人がいるわけじゃなし。

 きゃぁきゃぁいう夏陽の黄色い声をバックミュージック代わりに、あたしは新たにクッキーをくわえてソファにころがった。

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