第2話

 ぽんと、いともかんたんに差し出された原稿用紙の束を見て、息を飲む。

 まぎれもなくあたしの大事な原稿だ。差し出した主は、サングラスの男の人。

 片手で原稿を差し出してきた、その人は席に腰かけたまま、あたしに目もくれず、一心に左手に持った本の文字を追っている。

 その本を見て、あっと声を上げそうになる。

 その表紙にはこう書いてあった。『舞台演出の歴史』。

 さっきあたしが返却した本!

 今日まで借りていたあの本に、原稿用紙を挟んだままだったんだ!



「わぁ、ありがとうございます! とっておいてくれたんですね」



 嬉々として十枚くらいの原稿用紙の束を抱きしめて、ん、待てよと首をかしげる。

 さっき、なんかものすごく、失礼なこと言われたような。

 その疑問に答えるかのように、横から低い声が続ける。

「アイドルのヒーローが、ライブでヒロインに告白するラストシーン。ありゃてんでだめだ」

 夢中で書いた小説のそのシーンが思い出されて、かっと顔に血がのぼる。

 あのシーンが、てんでだめ? 一番のキュンポイントのはずなのに!

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