帰路
明けない夜はないんだよ。
最期に僕にそう言って空を飛んだ18歳が美しいまま永遠の眠りについた。
永遠に続くかもしれないこの夜が恐ろしい。
と君に相談したせいだろうか。
もしかしたら昨日の君は昨日の僕に
明けない夜はないんだよ
って言って欲しかったのではないだろうか。
何度も君が眠る墓石に聞いてみたが、その答えは君の音色で聞こえることはないまま、今を生きる鳥が懸命に空を羽ばたいていた。
なあ、僕は明けない夜はないという言葉が嫌いなんだ。明けない夜が明けた時の朝日はどうも僕には眩しすぎる。
まるで寝れなかったそんな世界に希望を持って生きるべきだと言われているみたいじゃないか。
男のくせに泣き言を口にした僕を見て、顎に手を持って行き、あからさまに考えたポーズをしながら君は少し微笑んだ。隣を一緒に歩いていた君は少し弱い僕を追い越し、振り向きながら
___それなら明けない夜も、寝れない夜も、明けてしまった日々も愛せるようになるべきじゃないかな。
そう誰かに伝えるような優しい音色で言った。今思えばそれが答えだったのかもしれない。
彼女もそれに悩んでいたのかもしれない。
彼女にしか分からない恐さが僕の言葉で言語化されてしまって、怖いを実感してしまったのではないだろうか。
僕は言語化をすることで僕の怖いを君に押し付けてしまっていたのではないだろうか。
もしかしたら君は僕の音色でそれを伝えて欲しかったのではないだろうか。
君だけの美しい音色をもう一度。君の美しい音色で僕をまた救ってくれ。
僕は君が好きだったみたいだ。
もう一度君に出会えるのならば、今度は僕が毎日君の話を聞くよ。
君が怖いこと。不安なこと。空を飛びたいと思っていた事。全部を聞かせてくれ。もし君が泣いてしまった時には、僕はその涙で綺麗な花を育てて君にプレゼントするよ。
だからまた君の声を聞かせてくれ。だからもし、もう一度出会う事が出来たなら、また僕と友達になってくれ。もし、もう一度出会えたならば前みたいに僕と毎日一緒に帰ってくれ。
なあ、最後に大人になれない僕の泣き言をもう一度だけ聞いてくれないか。
本当は僕も空を飛んでみたかったんだ。
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