8「赤岩土の山 2」
「そろそろお風呂入ろっか」
「あー?」
アーシャがぽかんとしていると、
「気持ちいいんだぞー」
先輩であるエスタは、得意顔でアーシャに語りかけた。アーシャの目がキラキラし出す。
ユウはいつものように魔法で浴槽を作り、お湯を温めた。今回は三人で入るので、浴槽も大きめに作った。
さすがに他に誰もいないのに、エスタかアーシャどちらかを一旦のけ者にというのはかわいそうで出来なかった。二人ともまだ男と女という感じではないので、変なことにはならないだろうともユウは楽観している。
ただユウ自身はちょっと迷った。男と女、どっちで入ろうか。エスタやアーシャへの配慮というより、自分が勝手に気にしてしまう。
男が第二次性徴を迎える少女と一緒に入る方が問題ありそうだなと考えて頷くと、お湯を沸かした女のままで入浴することにした。
シーツを広げて、エスタへ服を脱ぐように促す。アーシャはユウが脱がしてあげた。白だったはずのワンピースは、彼女の自由奔放な動きのおかげで黒く汚れべたべたになってしまっていた。上がった後は新しい服を作ってあげた方がいいだろう。
一足先にすっぽんぽんになっていたエスタは、脱がされたアーシャと自分の股を見比べて、不思議に思って首を傾げた。
「おれとなんか違う?」
「アーシャは女の子だからね。エスタみたいなおちんちんはついてないよ」
「ふーん。女はついてないのかあ」
最後にユウが脱ぐ。シャツをめくり上げると、ぷるんと胸が零れ出た。アーシャとエスタが、じーっと食い入るようにおっぱいを見つめているのにユウは気付いた。
「……気になる?」
「おっきい」
「あー」
エスタが素直な感想を漏らし、アーシャも何となく追随した。
二人の視線を一身に受けつつ下も脱ぐと、隠すもののないユウを観賞してエスタがまた言った。
「ユウもついてないね」
「そうね」
「でもぼーぼーだよ」
「ぼーぼー言うな」
デリカシーのない発言に、ユウが頬を赤く染める。
アーシャは、自分の身体とユウの身体に目を交互に動かしてきょろきょろしていた。違いが妙に気になって、膨らみかけの胸をぺたぺたと触っている。
「うー」
「ふふ。アーシャはこれからだよ」
アーシャの手を引いて、お湯のぴんと張った浴槽へ飛び込む。最初は熱いのか、アーシャはしばらくじっと耐えて懸命に目を瞑っていたが、慣れてきたら気に入ったようだ。頬を緩めて極楽の表情をしている。
「な。気持ちいいだろ?」
「あー」
エスタの呼びかけに、アーシャは満面の笑顔で答えた。二人は、ユウを中心にして寄り添う形になっている。
アーシャは肩を埋めるところまで使って、お湯のふわふわした感覚を楽しんでいる。目の前に、興味を惹くお椀型の丸い膨らみがぷかぷか浮かんでいた。先っぽがぽつんとボタンみたいになっている。アーシャはそーっと手を伸ばし、指先でちょんと押してみた。
「ひゃんっ」
ユウがびくっとした。そこは敏感だから、弄られるとつい変な声が出てしまう。ユウの弱点だった。最初はアリスに見つかったものであり、ミリアと二人の手で密かに開発済みであるのは誰にも言ってはいけない秘密である。
「おー」
つんつんと強めに何回もそこを押す。ふにふにする柔らかさを楽しんでいた。完全におもちゃである。ユウは困って笑うしかなかった。
もう一方の胸に、手が伸びる。ユウはそちらの方はぴしっと払いのけた。
「エスタはダメ」
「なんで?」
「ダメなものはダメ」
「えー」
もう。これだから無自覚なエロガキというのは厄介だとユウは思う。年頃だからか、自然と女の身体に興味をもって、やることなすことが一々妙にエロいのだ。相手がレンクスならもう百回くらいはおしおきしている。何でも許していたらいつか間違いが起こってしまうのではないかと、ユウはちょっとだけ危惧していた。
ともあれ、アーシャなら何でもして良いかというと(今は面白そうにもみもみしている)、そういうわけでもない。エスタもいるわけだし、目に毒だろう。流れを変えるためにも、ユウはアーシャの頭に手を乗せて言った。
「ぼちぼち頭と身体洗おうか。エスタは自分で洗えるね?」
「うん。ばっちり」
エスタは胸を張った。もちろんユウがやり方を教えてあげたのである。
ユウはアーシャを背中から抱きかかえるような位置に付けた。シャンプーを手に含んで、よく泡立てる。
「目を瞑っててね」
「あー」
ずっと心を繋いでいる状態で話しかけているので、言葉の意味がわからなくても大体のニュアンスは伝わる。アーシャはまぶたにぎゅーっと力を入れて目を瞑った。
「あはは。そんなに力入れなくてもいいの。もっと楽にして」
「うー」
アーシャはまぶたの力をやや緩めた。
ユウは彼女の髪に手を付ける。長い間洗われずにいた髪はかなり手強かったが、ごしごしと丁寧に洗って汚れを落としていく。お湯で洗い流したら、土汚れてくすんでいた髪は、枝毛を残しつつも、しっとりと濡れて本来の透き通るような桜色を取り戻した。指に絡めてみると、するりとほどける癖の少ない感触が心地良い。
やっぱり素材はいいねとユウは思った。自分の黒髪とどっちがいいだろう。
アーシャの髪をさわさわして感触を楽しんでから、ユウは後ろから彼女の耳元に口を寄せて声をかけた。
「もういいよ。目を開けても」
「うー」
アーシャがゆっくりと目を開ける。横を向くと、ユウと目が合った。
「さっぱりしたでしょ」
「あー」
頭がすーっとして、アーシャはとても気持ちが良かった。
ユウは、すっきりした顔をしている彼女を立たせた。
「今度は身体を洗おうね」
石鹸を泡立てて、手で優しくアーシャの身体に塗り立てていく。
首から始まって、肩から手、脇は匂いの素になるので丁寧に、そして背中と胸に手を滑らせていく。少しだけ丸みを帯びた胸に手が触れたとき、「私」自身も前はこんなものだったかなと、「私」と融合しているユウはふと思った。
股のところは、特に念入りに洗わなくてはならない。
触られるのがくすぐったくて、アーシャはきゃっきゃと大笑いしている。暴れないように押さえなければならないので、自然と二人は密着する形になっていた。
「こら。暴れないの」
「きゃはは!」
「いいなー。楽しそうで」
少し離れて一人良い子で身体を洗っていたエスタは、むくれていた。
三人ともが頭と身体を洗うと、お湯がかなり汚れてしまったので、ユウは張り替えた。
落ち着いてみると、山のひんやりとした空気がまたユウには気持ち良かった。空は綺麗な星に満ちていて、ロケーションも申し分ない。
するとアーシャが、お湯を手で跳ねさせた。ぴちゃっという音がして、エスタの顔にかかった。
「わっ!」
アーシャは彼のびっくりする顔を見て、面白そうに笑っている。
「お返し!」
むきになったエスタが仕返しにと、掌でお湯を掬い上げてアーシャにぶつけた。かけられるのも楽しいのか、アーシャは余計に笑って反撃する。
「あー!」
「この!」
楽しそうにお湯の掛け合いっこを演じ始めた。段々ヒートアップしていき、二人の矛先はそのうちユウにも向かった。ユウの顔面はずぶ濡れになった。
「やったな」
ユウは顔を拭うと、必殺の水鉄砲を披露した。ユウはこれが上手かった。かつて小学校の修学旅行、宿の浴場にてミライと伝説の死闘を繰り広げた際に使用したリーサルウェポンである。まさか解禁する日が来るとは思わなかったが。
掌を合わせて、二連射する。隙間からまとまったお湯が勢い良く飛んで行き、エスタとアーシャの顔面にそれぞれ直撃した。
「ぶひゃっ!」
「あうー」
「どんなもんよ」
したり顔をするユウに、目を拭って首をぶるぶる振るったエスタは息巻いた。
「アーシャ。一緒にユウを倒すぞ!」
「あー!」
共通の敵が出来たことで、二人は一致団結した。一緒に手をばしゃばしゃして、ユウにお湯をかけにいく。
「きゃ! まった! 二人がかりは卑怯だってば!」
雨あられとお湯を浴びせかけられ、ユウはたまらず降参した。
「やられた~」
ごぼぼぼぼぼ、とユウが顔を伏せ、お湯の中に沈んでいく。エスタとアーシャは勝利に湧いて、喜びのタッチを交わした。
しかし、中々ユウが浮かび上がってこない。
「あれ。どうしたのかな」
気になったエスタが、潜って顔を覗き込もうとしたとき、
「わっ!」
いきなりユウが飛び出して驚かしたので、エスタは水面で水を飲みかけて絶叫した。
「ごばばばばばわああああああ!」
「あはははは!」
「きゃはははっ!」
ユウとアーシャの笑い声が、夜闇によく通って行った。
「これでよし、と」
入浴後、ユウはアーシャの髪を切ってあげた。
「うん。すっきりしたね」
「あー」
手鏡を差し出されて、アーシャはそこに映っているのが自分だと理解するのにやや時間を要したが、くりくりとした愛らしい目をぱちぱちしているうちにわかった。
肩の下までぼさぼさに伸び放題になっていた髪は、はつらつとしたショートヘアに切り整えられている。普段動きやすいようにとのユウの配慮だった。やや短めにしたとはいえ、毛先はくるんと巻いて女の子らしさをアピールしている。
服も新しいワンピースに変えた。これで見た目だけは都会にいても不思議ではない女の子になった。中身はまだ野生児のままだが。
見た目が気に入ったのか、単に面白いからか、アーシャは手鏡を色んな角度に回して目を輝かせている。
「また可愛くなったね」
エスタも絶賛である。
じきに、アーシャは大きく欠伸をした。目をくしくしこする。眠たくなってきたようだ。
「そろそろ寝ようか」
ユウが呼びかけて、寝袋を作る。エスタもアーシャもユウと一緒に寝たがったので、今日からは寝袋も三人分の大きさだ。
自然とユウが真ん中になって、エスタとアーシャが両脇を固めるような形になった。二人とも、ユウにべったり甘えて抱き付いてくる。腕を枕にして引き寄せてやると、そのうちすやすやと眠りに就いてしまった。
騒がしい二人も寝てしまうと静かなもので。ユウは一人ぼんやりと夜空を眺めていた。
お腹がぐーっと鳴る。そう言えば二人に全部あげたから何も食べてなかった。そんなことも忘れてしまうくらいユウには楽しい一日だった。
エスタとアーシャのぬくもりを一身に受けて。どこまでも無邪気に自分を信頼して身を寄せる二人に、まるで新しい家族が出来たみたいだなとユウは思った。
エスタもアーシャもユウに助けられたが、ユウもまた二人に助けられていた。二人のおかげで、寂しさを感じることはなかった。温かい気分に心が満たされていた。
やがてユウも眠りに落ちた。窮屈な寝袋にくるまって、互いが互いを求めるように身を寄せて一緒に眠る三人の寝顔は、みんな幸せそうだった。
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