第23話 彼女のランクはFだそうね。それではアイドルにはなれないわ。
大勢の受験者が信也に注目する。ちょうど自己アピールをしていた女子も気を取られて信也を見つめている。
信也は自己アピールするスペースまで歩くと立ち止まった。
「さっき姫宮詩音という女の子が入部試験を受けに来たはずだ。何故断った!?」
「あの、その……」
信也の後ろを着いてきた姫宮が言いにくそうにたじろぐ。
信也の問いに試験官たちが難色を示していた。突然の来訪者に対処をこまねいているようだ。
そこへ、会場奥から一人の女生徒が歩いてきた。
「へえ、あなたがイレギュラー。神崎信也君ね?」
その声色は自信に満ち溢れながらも品のある、澄んだ声だった。
「私はアイドル部部長三年、三木島沙織(みきしまさおり)よ。よろしくね、イレギュラーさん」
長い金髪がさらりと垂れる。横の髪を髪飾りでとめ後ろ髪は腰まで伸びていた。レッスンを重ねた肉体は発育もよく、曲線を描く肉体美は理想的な女性像だ。
「あれは、三木島さんよ!」「一年でプロデビューしてから今ではCMクイーンとなり月九ドラマにも出演した沙織さん。きゃー、本物よ!」「俺来てよかった!」
「私の紹介は必要かしら? というよりも、ここに来ているということは当然知っているのでしょうけれど」
「いいや。あいにくアイドルには興味がないんだ」
「あら。ならどうしてここに?」
「彼女にも試験を受けさせるためだ」
「彼女?」
三木島に試験官の一人が近づき耳打ちする。それで納得したのか「ああ」と小さく声を漏らした。
「そういうこと。状況は分かったわ」
「なら!」
「残念だけど」
しかし、三木島も試験官と同じ、考えは同じだった。
「彼女のランクはFだそうね。それではアイドルにはなれないわ。アイドルというのはみんなの憧れなの。こうなりたい、ああなりたい。そんな憧れの象徴でなければならない。そこにランクFの子がいたらどう思うかしら。誰もランクFには憧れない。よって、彼女はアイドルにはなれないわ」
三木島は目を伏せそう断言した。アークアカデミアのアイドル部部長にそう言われ、ショックを受けたように姫宮は悔しそうに俯いた。
「そうだそうだ! ランクFが来るな!」「ここはアイドルにふさわしい人が集まる場所よ、ランクFの子が来る場所じゃないわ!」「図に乗るな、ランクF!」
帰れ! 帰れ! ランクF帰れ!
大勢の人間から叫ばれる。
姫宮はなにも言えなかった。どんなに悔しくてもなにも出来ない。
耐えることしか出来ない。
それが自分に相応しい身分なのだと、どこか諦めるように。
「う、うう!」
姫宮は溢れる涙に崩れてしまった。両膝をついて両手を顔に当てる。皆からの非難を一人で耐えていた。
「だまれぇええええ!」
それを、信也の怒号が一蹴した。
「なんだよそれ、お前らそれでもアイドル志望か!? 人を見下すのがアイドルのすることかよ!?」
信也は叫ぶ。辺りは黙っていた。
「信也君……」
「こんなの差別じゃねえか! いじめだろ、どう見ても!」
信也は叫んだ。叫んだのだ、己の心が叫んでる。
『おいどうした信也、かかってこいよ!』
『や、止めてくれよ……』
『はっはははは! 情けねえ』
生まれつきの境遇(ランク)で、こうも決められてしまうのか。
悔しいのになにも出来ない。
そんな思いを、自分も知っているから。
姫宮は顔を上げ信也を見ている。涙で濡れた目で。
そんな姫宮に信也は近づいた。そして片膝を付くと手を差し出したのだ。
かつて自分がそうされたように。
「助けに来たぜ、泣き虫姫宮。なんてな?」
最後に笑みを浮かべて。
「うん……」
それに頷いて、姫宮は信也の手を取った。
信也は姫宮を立たせる。姫宮は涙を拭いた。
「大丈夫だからな、姫宮」
信也はそっと声をかけた後、みなに振り向いた。
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