第22話 やっぱり、ランクFじゃ駄目なのかなぁ……
教室の前を横切る姫宮の顔。それは悔しそうに下を向き、その目には涙が浮かんでいたのだ。
姫宮の後を追い掛け屋上にたどり着く。扉を開けてみると姫宮は一人でフェンスに手をかけ俯いていた。
「姫宮……?」
「うっ、うう……!」
泣いている。離れている扉の場所にいる信也には彼女の泣いている表情は見えないがその声は明らかに涙を流している。
出かける時は笑っていたのに。いつも明るく夢を語っていたのに。
その姫宮が泣いている。
「姫宮……どうしたんだ?」
慎重に近づき、砂の彫刻に触るようにその背中にそっと声をかける。
「う! うわあああああ!」
「姫宮……」
姫宮は振り向くなり抱きついてきた。彼女の顔が信也の胸元に当てられる。
泣きじゃくる彼女を胸で受け止め、信也は優しく抱きしめた。
どうすればいいのか分からず、とりあえず背中を擦ってやる。
すると彼女から悲しみに濡れた声で話しかけてきた。
「やっぱり、ランクFじゃ駄目なのかなぁ……」
悔しさと悲しみが胸に突き刺さる。
「ランクが低いと、もう、夢は叶わないのかなぁ……」
彼女の思いが伝わってくるから。
「どうしてそんな」
腕の中で姫宮は震えている。嗚咽に声は途切れ信也の胸を濡らしていく。
そんな彼女を見るだけで胸が締め付けられるようだ。
「試験、受けに行ったんだろ? 頑張るって言ってたじゃないか」
「言われたの。試験官の人に。ランクFじゃアイドルは無理だって。なれるわけがないって」
答えに、落ち着き始めていた涙が再び溢れていた。
「わたし、お願いしますって、元気に志願書出したのに、目の前で破られて……!」
「!?」
姫宮の答えに胸が震えた。次第に心の奥から怒りが湧いてくる。
「許せねえ……!」
信也は姫宮の背中を擦っていた手を握り締める。
「そんなのひどい! 姫宮は真剣に夢を追いかけているのに、それを無視するなんて!」
信也は姫宮を離すと、力強い眼差しで彼女を見た。
「抗議しに行こう!」
情熱を瞳に宿して、信也は彼女を見下ろした。
「信也君……」
姫宮が見上げる。いつもは愛らしい笑みを浮かべる頬には泣き跡が残り、信也を見つめる瞳は涙を流している。
「俺がなんとかするから」
彼女の視線を受け止めて、断言するのだ。
「姫宮の夢を、こんなところで終わらせない!」
信也は姫宮の手を取り、アイドル部がある部活棟へと走り出した。
全国から優秀な生徒が集まるアークアカデミアは部活動も盛んだ。公式大会にこそ出れないないものの残した功績は枚挙にいとまがない。各業界では卒業前から目をつけスカウトしている者もいる。
その一つがアイドル部。在学中のプロデビューなど当たり前。男子生徒も女子生徒もここにいるだけでそこらの芸能事務所にいるよりよっぽど仕事が入る。
その栄光たる部活に入部しようと毎年大勢の受験者が集まるアイドル部の試験場は第二体育館で行われ、四十人ほどが集まっていた。
「ここか」
信也は体育館の入口に立ち中を覗いてみる。そこでは真剣な雰囲気が漂い、五人の試験管が同じテーブルに座り、その前で一人ずつ自己アピールを行なっていた。後ろの列には大勢の人が自分の番を待っている。
「ねえ、信也君」
中の様子を伺っている信也の背後から少しだけ距離を置いて姫宮が聞いてくる。この場所に近づくのを躊躇うように彼女の顔色は暗い。
「私のために頑張ってくれるのは嬉しいよ。でも、どうするの?」
心配する彼女の声。けれど信也は振り返ることなく体育館へと足を踏み入れる。
「ランクで決められるっていうなら」
その目には、未だ冷めやらぬ意思が燃えている。
「俺が決めてやる。ランクAの俺が」
信也は歩き試験官に近づいていった。
「たのもぉー!」
「なに?」
「あの人、イレギュラーよ!」
「イレギュラーがここに? あいつもアイドル志望か?」
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