第24話 では、私から一曲。皆さんに応援を送ります

「人間もアイドルもランクがすべてじゃない! 何故ランクで決めつけようとするんだ? 彼女にはアイドルになりたいという夢がある、その情熱は本物だ! お前らにだって負けないほどにな!」


 信也は姫宮の眼差しを背中で受けながら、三木島に指を突きつけた。


「俺と勝負しろ!」

「勝負?」


 信也からの突然の勝負宣言に三木島は呆気に取られるが信也は続ける。


「あんたもアイドルなんだろ? なら歌を歌い、この場にいる人から多くの票を得た者が勝ち。俺が勝ったら姫宮にも入部試験を受けさせてもらう」

「そんな!? 無理だよ信也君。そんなことしたら全員三木島さんに投票するに決まってるよ!」


 姫宮の言った通り、周りからは「お前に投票するわけないだろ」とヤジが飛んでくる。


 三木島は最初こそ面食らっていたが、すぐに自信に満ちた表情に戻っていた。


「私が勝ったらどうなるのかしら?」

「知らん!」


 デデーン!


「ふっ、まあいいわ。その時はあなたに勝ったと宣伝させてもらうわよ? ランクAに勝ったと大々的にね。それと条件を加えさせてもらうわ。観客の投票に関して異能(アーク)は使えない。投票は観客の意思で行う、どう?」

「初めからそのつもりだ」

「へえ、意外。それが狙いだと思っていたのに」


 この絶対的不利な状況で勝つとなれば観客の意識を操作して自分に投票させる。それしか方法がない。三木島でなくともそう思うだろう。


「ではどうやって私に勝つつもりなの。この、絶対的に不利な状況で」


 そうでないと知ってから三木島から余裕が零れ出ていた。ランクAが相手とはいえここはホーム。負ける理由がない。


 それでも、この男は諦めない。


「歌で勝負する。そして勝つ!」


 どんな不利な状況でも諦めない。自分を信じる心、人間の可能性を信じているのだ。


「分かったわ。その勝負受けましょう。アイドル部の入部試験を一時中断、ここにいる全員には突然ですがこの勝負の審査員になってもらいます」


 三木島の言葉に周りは歓声で応える。テレビの向こう側のアイドルが目の前で歌を歌うのだ、ファンにとってはこれ以上にないサプライズだ。


 歌唱勝負はそのまま自己アピールをしていた場所で行うことになった。曲の準備も終わり、最初はアイドル部部長、三木島沙織が歌う。


 試験官は外れ全員が後ろの列に加わる。三木島は正面をファンに向け大きく手を振った。


「突然のことに戸惑っている人も多いと思うけど、今日はアイドル部入部試験に来てくれてありがとう。異能(アーク)に歓迎された皆さん、私と一緒にここから夢を追いかけましょう!」


 憧れの人からの声援に受験者から「きゃああああ!」と歓声が津波のように押し返される。熱気だけならすでに本物のコンサートさながらだ。


「では、私から一曲。皆さんに応援を送ります」


 三木島はスペースの中央で位置を取りマイクを持った。足を肩幅に取り顔が下を向く。いよいよだ。観客は声を潜め、興奮を残したまま雰囲気が切り替わる。


 信也も姫宮も、離れた場所で彼女を見ていた。アークアカデミアのトップアイドルの実力、その空気は信也にも伝わってくる。


 そして、三木島の顔が上がる。きらりと自信に満ちた目で。


「いくわよ。私はランクCアーク、『光子妖精の戯れ(ライブ・コンサート)発動!』」


 瞬間だった。消灯したかのようにこの場は暗闇に包まれる。しかし誰も消してはいない。


 直後、三木島沙織がライトアップされていた。さらにはその服装までもが変わっていた。


 さきほどまでの制服姿ではない。ふわりとしたスカートのライブ衣装。黄色と白のフリルにブーツ。白の長手袋はマイクを握り、髪型も派手な巻き髪に変わっていた。


 一瞬での変身とその煌びやかさに今までで一番の歓声が沸き起こった。


 ランクCアーク、光子妖精の戯れ(ライブ・コンサート)。それは光を自在に操る能力だ。暗闇にすることもライトアップもお手の物。さらに練度を高めれば自分の見た目も変えられる。自分の動きに合わせて光子を動かし、変身したように見せているのだ。


「さあ、盛り上がっていくわよ!」


 三木島の宣言に合わせて曲が流れ始めた。彼女のデビュー曲だ。ここから夢を始める受験者に向けた応援曲。


 色とりどりの照明が彼女を彩る。さらに彼女は四十人ばかりしかいないこの場に満席の映像を重ねた。歌唱勝負でしかなかったこの場が一気に満員のコンサートだ。全員が蛍光のステッキを振り三木島は踊る。


 光の中で、三木島のソロライブは輝いていた。


「すごい。これが三木島さんのライブ……」


 そのあまりの規模と演出に姫宮も感嘆していた。これだけのことを一人で行っているのだ。すごいはずだ、まさにトップアイドル。異能(アーク)を持ったアイドルが人気なのも頷ける。


「でも」


 だが、同時に姫宮は悔しがっていた。彼女を羨望の眼差しで見ながら、強く両手を握る。


「歌も、ダンスも……私の方が上手い……!」


 三木島のライブは最後まで興奮の中で終わった。三木島は異能(アーク)を止め見た目も空間も元に戻るが観客からの熱い声援は止まらない。三木島は小さく手を振って応えながら信也たちの方へ近づいてきた。


「どうだったかしら、私のライブは」

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