第7話 君たちも知っての通り、アークアカデミアでは生徒全員に異能(アーク)が授けられる
第三アークアカデミアでは入学式前から一つの噂が園内をざわつかせていた。
「おい聞いたかよ。今年の入学生にランクAがいるって話」
「マジかよ!?」
「あ、それ私も聞いた」
「ランクAっていうと次元の超越だろ? 空間転移とか?」
「中身までは知らないなぁ」
「気になるわよね」
高校球児がプロ野球に食いつくように彼らの意識は謎のランクAで持ちきりだ。気にならないはずがない、ランクは彼らのいわば中心だ。
「もし本当にランクAがいるのなら、今年の入学生の代表挨拶は間違いないな」
「ええ、そうでしょうね」
彼らの目つきが変わる。謎のランクA。それが誰かは分からないが特定は出来る。
新たなランクAがいったいどんな奴なのか、関心を瞳に宿して噂話は広がっていた。
そんな思惑など知るはずもなく当の本人は全力疾走でへとへとになっていた。
「はあ! はあ! 姫宮、思ったより足速いよな」
信也は体育館の前で両手を膝に置き大きく息をする。体が熱い、というか痛い。正門からここまで猛ダッシュを続けてきたのだから無理もない。しかし同じ距離を走っているはずの姫宮はピンピンしていた。
「そうだよ、こう見えても鍛えてるからね~」
「鍛えてる?」
「さあ行こう行こう!」
陽気に歩き出す彼女に信也もやれやれと体育館へと入る。
アークアカデミアは最先端な学園ということもありそのすべてが最新だ。それは体育館もそうであり、広いフローリングに二階には階段状に並べられた椅子、コンサートも行える巨大なホールだ。新入生は一階に並び、上級生は二階の椅子に腰かけている。そろそろ入学式開始の時間だ。教室ではなく会場に直接来て正解だったようだ。
「なんとか間に合ったな」
「ふぅー、わたしぎりぎりセーフかも」
「神崎信也さん」
そこへ声が掛けられた。凛とした声色で振り向けば女性の教師がいた。
「えっと確か……」
「あなたたちのクラス教師を担任する牧野萌(まきのもえ)です。名前は呼ばなくて結構です、嫌いですので」
そう言う女性は白のスーツとタイトスカートに身を包んだ二十代半ば頃の女性だった。ビシッとした立ち姿はバリバリのキャリアウーマンを思わせる。黒い髪は短めで丸い眼鏡の奥では眼光がにぶく光っている。
「時刻ぎりぎりですね、今までなにをしていたのですか。説明してください」
「え、えっと~……」
あまりの視線に目を泳がすが牧野先生の眼光はするどさを増すばかりだ。
「あなたたちっていうことは私の担任でもあるってことですか?」
「そういうことです」
「やったー! わたし信也君と同じクラスだ、同じ同じ~」
「あ、ああ。そうだな」
隣で無邪気に喜ぶ姫宮がなんとも可愛らしいが今は止めて欲しい。叱られている最中だ。
「神崎信也さん」
「は、はいッ」
再びするどい声で呼ばれ背筋を伸ばす。
「いいですか、これ以上勝手な行動をされては困ります。以後気を付けてください」
「すいません……」
信也は頭を下げ項垂れた。
「すごいよすごいよ、信也君代表挨拶なんてさすがだな~さすがだな~」
隣では姫宮が呑気に騒いでいた。
それから時刻は進み入学式が始まった。新たな物語の始まり、期待と夢の詰まった晴れ舞台だ。新入生たちの顔色は浮ついている。夢のアークアカデミア、その学校生活がいよいよ始まったのだ。
理事長は四十代ほどの男性だった。眼鏡をかけ柔和な笑顔で新入生に歓迎の言葉を贈る。さらには吹奏楽部の演奏では異能(アーク)を用いて音に色がついて見えるという神秘的な音色を聞かせてもらった。まるでオーロラの中にいるようで空間が光り音調に合わせ激しい戦慄の時は赤く、落ち着いている時は青く空間に色が付く。ほかでは絶対に出来ない体験だ、生徒たちは初めてみる異能(アーク)というものに興奮していく。
ここは夢と希望溢れるアークアカデミア。ここから新たな人生の一歩が始まる。
しかし、そんな晴れやかな雰囲気が変わる。それは生徒会長、上級生あいさつの時だった。
檀上に上がる度に黒の長髪が揺れる。対照的に生徒会の証である白い制服を着ており見た目も相まってまるで海軍のような雰囲気だ。マイクの正面に立ち彼らを睥睨する目は笑っていなかった。
「入学生の諸君、まずは入学おめでとう。君たちはここにいる時点で険しい門を抜けた優秀な者たちだ。そんな君たちをアークアカデミア並びに私たちは歓迎しよう」
言葉とは裏腹に彼女が本心ではそう思っていないことはここにいる全員が分かっていた。厳しい空気が物語っている。その雰囲気に当てられ新入生も身構えていく。
「君たちも知っての通り、アークアカデミアでは生徒全員に異能(アーク)が授けられる。異能(アーク)はここでしか得ることは出来ない。それは異能(アーク)開発技術がアークアカデミアにしかないのと、なにより異能(アーク)開発の適した年齢がちょうど私たち思春期の子供だからだ。それは大人になる前の、可能性に満ちた時期だから、というのももしかしたらあるかもしれない」
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