結局のところ

3話.5 結局のところ


会話…成立したけど、理一さんの女恐怖症はまだまだ根が深そうだ。



てか、ここが玲二との待ち合わせ場所なのに、理一さんはどこ行っちゃったんだか。



まぁもう子供じゃないし……最悪の場合、家に帰ってるだろうし……いっか。



スマホを開いて時間を確認した。



……玲二、遅いな。



「あ……れ、戸田さん?」



気付けば暗くなって街灯やイルミネーションが目立ち始めていた。


だから一瞬、薄暗い中の逆光で誰かわからなかったけど



「妹尾くん」



友達4人と一緒にいる妹尾くんがビックリした顔で私を見下ろしていた。



「タカヒロの友達?」


「あれ、一人なん?」


「嘘!?何々?」



妹尾くんの友達から突然の質問攻めになり、ポカンとなった。


……なんか囲まれた。


妹尾くんはそんな友達を「バカ、下がれ」と押し退けたあと、もう一度私を見た。



「戸田さん、何してるの?……用事があったんじゃないの?」


「……えっと、」



あるような…ないような……、どのみち放置されたって感じだけど。



言葉に迷っていると友達の一人がグイッと乗り出してきた。



「君がタカヒロを振ったって子?」



……振った?


何を?



妹尾くんは「ちょ……バカ!!違う!!」と焦っている。


私のことはお構い無しに会話が続く。



「一人ならさ、一緒に遊ばね?こいつと二人っきりってのが微妙でも、皆で遊べば良くね?」


「そうそう。タカヒロにチャンス与えると思ってさ!!ね?」



微妙?


チャンス?



ますます会話の置いてきぼりなので、どういう意味なのか助けてほしいと"タカヒロ"である妹尾をチラリと見た。


私と目が合った妹尾くんは急に背筋の伸ばして、キョロキョロと挙動不審になった。



「え……あー、戸田さんさえ良かったら」


「は?」


「……一緒に…遊ぶ?」



妹尾くんまで何を言ってるんだ?


なんで一緒に遊びたがる?



周りの友達は「ヒュー」だか「フー」だか囃し立てている。



意味がわからないから、とりあえず首を振った。



「悪いけど、一応私は人と……」



『待ち合わせているから』まで言い終わらなかった。



「ま!!固いこと言わず!!せっかくのクリスマスなんだから!!」



名前も知らない妹尾くんの友達が私の手を取って引っ張ったから、無理矢理な感じで立たされた。



「え……あの、」


「一緒に遊んでる内になんだかんだで楽しめるって!!」


「行こ行こー!!」



連れていかれようとされている空気にゾクッと怖くなった。



「迷惑だ」



限りなく冷えきった声が割り込んできた。



「君は一人でジッと待つことも出来ないのか?」



理一さんが呆れたような顔を作って、戻ってきた。



妹尾くんを始めとする他の友達らもポカンとした顔で理一さんを見た。



「……誰?」



誰かが言ったその言葉に理一さんが冷たい視線を彼らに流す。


それだけで、全員がビクッと震えた。



「……この子に何の用だ?」


「え……っと、」


「わかりやすく簡潔に言え」



腕を組んで淡々と聞いてくる理一さん。


……なんか怖いんですけど。



白けたような空気の中、突然腕を引っ張られた。



暖かい。



驚いて、包まれた温かさの正体を見上げた。



「玲二!?」


「このお兄さん達、ゆずの友達?」



後ろからすっぽりと玲二に包まれている。


いつの間に。



玲二の登場で妹尾くん達は



「おい……連れがいたんなら行こうぜ」



誰かの一言でぞろぞろとその場を離れていった。



「え……あの、」



展開早くて着いていけずに咄嗟に声を掛けた。


妹尾くんが振り返った。



振り返られたところで何か言うことも何もないけど、


だからとりあえず…



「良いお年を!!」



それらしい挨拶だけ言っておいた。



離れた距離の間を色々な人が混じって横切っていくが、



「……良いお年を!!」



ちゃんと届いたらしい。


笑顔で返してくれたから、ちょっとだけホッとした。


一緒にいた友達も「またねー」「ごめんねー」「良いお年をー」「メリークリスマス!!」と口々に返してくれた。



そして再び歩き出した友達4人は妹尾くんの背中を叩きながら「元気出せよな」と何故か慰めながら、去っていった。



「え?本当にゆずの友達だったの?」



妹尾くん達が見えなくなって、玲二の質問に小首を傾げた。



「本当にって?」


「俺、てっきりナンパなんかと思った。」


「ないない。私にナンパとかありえないし」


「……」


「一人が知り合いで、あとの残りはその友達だったみたい」


「へー」



玲二に説明していると、先ほどの冷気が殺気に変わるほどのスゴいオーラが肌に刺さった。


ゆっくりとそっちに目を向けた。



理一さんがニコニコ笑っている。



が、恐い。



「女……先ほど聞いたことと話が違うぞ?」


「は?」


「君は玲二に何もしないんじゃ……なかったのか?」



そう言われて、玲二との距離感に気付いた。


完全に抱擁されてる。



玲二はキョトンとした顔をするくせに離れようとしない。



っていうか……



「これは私がしてるんじゃなくて、玲二が勝手に……」


「黙れ、女」



……えー



理不尽すぎて呆気にとられていると、頭上から笑い声が聞こえてきた。



「あははは!!」


「……何笑っているの、玲二?」


「いや…俺がいない間に二人、仲良くなったんだなーと思って」


「「どこが!?」」



そんなつもりなかったのに理一さんとハモってしまった。


だから余計に玲二はまた笑った。


思わず溜め息をついた。



「だいたい理一さんは私のことが嫌いなんだから──」


「……そうかな?」


「……は?」



玲二が耳打ちした。



「多分さっきの…兄ちゃんもゆずが絡まれてるって思ったから、助けようとしてたんじゃないの?」


「……え?」



助けようとした?


そんなの、理一さんのコマンドの中にないよ?



いまいちピンと来なくて、首を傾げた。



とりあえずこれ以上、理一さんに怒られないように玲二の腕を外した。



「それより玲二、どこ行ってたの?」



ようやく玲二から距離を取れて、向かい合わせになったところでそう聞いた。



「おー!!クリスマスプレゼント!!」


「プレゼント?」


「そう!!プレゼント!!」



玲二は嬉しそうに笑う。



「二人分の、ちゃんと買ったから!!」



……プレゼント。


やべぇ


何も用意してない。


あーぁ、という声が出そうになったかたわら、理一さんがジーンと目を潤ませる。



「ありがとう……玲二。こんな寒い中……」



理一さんの玲二への異常な甘さに溜め息が出そうだったが、かじかむ手に息を吐いて誤魔化した。



そんな手を玲二に取られた。



「はい、これはゆずのプレゼント」



私の手に包みを手渡された。



渡された包みを見たあと、瞬きしながら玲二を見た。


玲二はやっぱり嬉しそうだ。



「今、開けてもいいよ?」



それは今、開けろってことか?



とりあえず逆らわないでいた。


開けてる途中で「これは兄ちゃんの分!」と理一さんにも渡していた。



プレゼントの中身は……手袋。



すごくプレゼントらしいプレゼントにビックリした。


白い手袋……



「……玲二、ありがとう」


「おぉ!!」



何も用意してなかった自分が後ろめたい。



「玲二、今度欲しいのあったら言って」


「あはは、別にねだるためにあげたんじゃないんだけど」


「うん。でも渡すから」



玲二のプレゼントを受け取った理一さんは歩き出した。



「さ、帰るぞ」



そうだね、寒いし。


早く帰ろう。



そう思った矢先に、玲二が「あっ!!」と叫んだ。



「ケーキとか、まだ買ってねぇ!!」



玲二に言われるまで、ケーキの存在を忘れていた。



「まぁ、別になくても平気じゃない?」



私の生ぬるい返事に玲二が拳を握った。



「平気じゃないし!!クリスマスに食べなきゃいつ食べんの!?なんでゆずはそんな冷めてんの!!」



……そう言われても。



なかなか進もうとしない私と玲二を見て、理一さんは呆れたように溜め息をついた。



「帰るぞ」


「でも兄ちゃん!!ケーキがない!!」


「大丈夫だ。ちゃんと買ってあるから」



理一さんの言葉に『いつの間に!?』とビックリした。


私の言いたいことが伝わったのか、理一さんは「ついさっきな」と付け足した。



ともあれ理一さんのナイスプレーに玲二は嬉しそうに笑った。



さて、帰ってご飯だ。



かじかむ手に、さっそく玲二の手袋を着けると、その手に紙袋がやってきた。



「え?」



咄嗟のことで受け取ったが、それは仏頂面の理一さんから渡されたものだと気付くのに少し時間が掛かった。


歩き出した玲二と理一さんに慌てて着いていった。



「な……なんすか、これ」



自分でも眉間に皺が寄っているのがわかった。


だって理一さんが私に何を渡すっていうんだ。


爆弾?



理一さんは怪しがる私に目を細めて、睨んできた。



「何じゃない。チキンだ」


「……は?」


「フライドチキン」



フライドチキン?



ポカンとする私に理一さんはますます険しい顔をする。



「君が言ったんじゃないか」


「はい?」


「フライドチキンって。欲しかったんだろ?」



フライドチキン……



確かに言った……気がする。


兄貴の思い出に思わず呟いただけだったんだけど……



「って、急にどっか行ったのはわざわざ買いに行ったからですか?」



私の疑問に理一さんの眉間の皺が深くなる。



「キミが言い出したことだろ」



だからって……買ってきたとか……



やっぱりこの人、変だ。


あと──




『理一さんは私が嫌いなんだから──』


『……そうかな?』




──違うのかな?


どうなんだろ。



白い手袋でフライドチキンの袋を抱える。



……こんなクリスマスらしいクリスマス……何年ぶりだろう。



先を歩いていた玲二が振り返って、少しビックリした顔をした。



「あれ?ゆず、笑ってる?」


「へ?」



条件反射で白手袋に包まれた手で口元を押さえた。



笑ってる?



そしたら玲二もニコッと笑った。


そして口を押さえてた手を引っ張った。



「ちょ……玲二」



玲二は反対の手で、理一さんの手も取った。



「おい、玲二?」



玲二は笑顔で私と理一さんを引っ張って歩く。



「早く帰ろう!!」



一瞬、理一さんと目が合った。


もうすぐ高校生になるとは思えない無邪気な笑顔に私も理一さんも思わず笑った。



結局のところは、よくわからない。



理一さんも……玲二も。



でもこうして誰かと一緒に季節を過ごすと言うのは悪くないと思う。



そして、私も理一さんも玲二には弱いなぁという親近感を認識した。

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