Ep.x+4 -「…本当に、頑張りすぎなんだよ、お前はさ」-

 高校に入って2度目のゴールデンウィーク。まだ温かいの範疇…なのかもしれないけど絶妙に気温が高い。

 日の当たる所だと少し汗がにじむ。


 そんな中、俺たちは太陽の元でBBQバーベキューを行っている。

「やっぱ焼くだけなら俺でもできるな」

「いや…まぁ、そうだな、焦がさないかだけが心配―――あ、それもう返して」

「おう」

 森谷は真剣な面持ちでバーベキューコンロの上に乗った肉を裏返す。

「そんな真剣にやらんでも」

「いやいや、焦がしたらマズいだろ」

「…料理って案外適当でもいいんだけどな」

 これが料理に該当するかどうかは置いておいて。

「でた、家事強者の口癖」

「なんだよ家事強者って」


 ちなみに葵らはどこにいるかと言うと、木の下でブルーシートを広げて座っている。

「葵~、肉焼けたぞ~」

「おう」

 葵を呼んで結華と篠宮の分も取りに来てもらう。

 焼いた肉と野菜が刺さった串を3本紙皿にのせて葵に渡す。

「サンキューな」

「はいはい」



「……………」

 たまにはこうして、遠巻きに響谷くんを眺めるのもいいかもしれない。少し前までは、ずっとこの距離くらいで響谷くんを眺めていたんだ…。体育の時も、席替えの時も。

 …本当に残念だったのは、響谷くんとクラスが違ったこと。学校から家に引き返そうという思考がよぎるほどにはショックだった。


「ほい、結華ちゃん。響谷が焼いてくれたお肉だぞ」

「ありがとう」

 葵さんから串を受け取り、それに刺さった肉を食べる。

 …うん、おいしい。

「結華ちゃんほんとに無口だね」

「だね~」

 …だって、話したい相手と話せない距離にいるもの。手伝いに行こうかな…。



「俺たちも木陰で休みたいぜ…」

「これ焼き終わったら終わりだからもうちょっと待てって」

「えぇ~…これ片付けんのも俺らだろ?」

「いや、それは葵がやってくれる」

「そーなのか?」

「おう」

「んならまあ待つか…」


 それから最後の肉を焼き終えて、俺たちは木陰の下で一休みする。葵たちが後片付けをしているのを眺めながら。

「あー、木陰は涼しいなぁ~…」

「そんなに変わらないだろ?」

「いやぁ、まあ気の持ちよう?」

「…そうかもなぁ…」

 ……………。

「森谷、楽しかったか?」

「ん?おう、そりゃもちのろんよ」

「そうか、そんならよかった」

「ってか、姫とは違うクラスなのに俺とは同じクラスなんだよな」

「なんだよなぁ、腐れ縁ってやつなんかね」

「どうなんだろなぁ、ってか腐れ縁は酷くねーか?せめてほら、親友とかさ」

「親友…親友なぁ?」

「なんだよ」

「いやぁ…親友…って言うほど仲いいのかね俺らって」

「少なくとも互いの恋人を連れてBBQバーベキューするような間柄は親友じゃねぇのかなぁ」

 …まあそうかも…?



 葵さんの車に揺られて、家に帰る。手を洗って、ソファに座る。

「…んっ、響谷…?」

「…すぅ…すぅ…」

 響谷くんが私の肩に頭を預けて眠っている。

 どうしよう、今日はこのまま家に帰る予定だったんだけど…。帰りたくない、し、帰れなくなった。

「…響谷くん…」

 響谷くんの匂いが鼻腔をくすぐる。…シャンプーとかリンスの匂い、なのかもしれないけれど。

 香水とかの匂いはしない。響谷くんはそもそも香水を付けないから。

「…ん…」

 なんだか私も眠くなってきたな…。

 少しだけ、寝よう、と…―――。

 ―――

 ――…

 ―……

 ………ん……んぅ…。

 今、何時…かな。薄く開けた目で壁掛け時計を見る。

 …17時…1時間少し寝ていたのかな…。

「…ん、ブランケット…?」

「おはよう、いい夢は見れたか?」

「…あ、葵さん…。おはよう…」

「おう。…で、この寝坊助はまだ起きないのか」

「…みたい、です」

 最近ずっと勉強していたし…もしかして夜も遅くまで勉強していたりするのかな…。

「…なんだかんだ言ってさ、響谷は自己管理が苦手なんだよな」

「…そうなん、ですか?」

「あぁ。…まあそりゃ、自分の生き方を矯正してくれるような親がいないからな。…だから、詰め込み過ぎる節があるっていうか…さ」

 葵さんの目は、優しく、愛おしそうに響谷くんを眺めていた。

「…自分では無茶してないつもりなんだろうけどさ」

「………」

「だから、ちゃんと言ってくれよ?」

「え?」

「無茶して倒れられたらさ、そりゃ私も困るし嫌だが、一番嫌なのは結華ちゃんだろ?」

「…そうだね」

「だから、たまにはちゃんと『休め』って言ってやってくれな。………」

 葵さんが響谷くんの頭をそっと撫でる。

「…本当に、頑張りすぎなんだよ、お前はさ」

「………」

 こんな葵さんの表情を見るのは、初めてかもしれない。

「…普段の響谷くんの前ではそう言う事、言わないの?」

「まあ、な。こんな事…親でも何でもない私が言ったところで…さ」

 普段から、きっと響谷くんの事を気にかけているんだろうな…葵さん。そうじゃなければこんな事、言わないだろうし。

「…ん…」

「あ、響谷くん」

「…おはよ…ゆいか…」

「やっと起きたか寝坊助」

「…るせぇ…」

「………」

「…ん?どうしたの結華?」

「ううん、何でもない。おはよう、響谷くん」


――――――――

作者's つぶやき:葵さん…本当に響谷くんの事を大切に思っているんですよね。響谷くんが無茶をしてでも頑張っているのは、きっと結華の隣に立つに相応しい自分になるため…何じゃないんでしょうか。

そう、葵さんは母親ではないんですよ。あくまで保護者なわけですから。

こういう、葵さんの保護者の一面が出るシーンっていいですよね…。親友の子供だから保護してる。なんて、それ以上の愛情を響谷くんに注いでいるんですよね。

だからもう、葵さんは親でもいいような気がしますけれど…。

――――――――

よろしければ、応援のハートマークと応援コメントをポチッと、よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る