第4話 魔法って言葉だけじゃないんですね
○登場人物
主人公:卑屈なJK 多分ツッコミ
西の魔女:白髪の幼女(n歳)多分ボケ
転生したら、白髪の幼女がいて。こちらから質問したり、訳の分からない説明をされたりして。この時は、やや癖と圧の強い幼女だと思っていました。
その翌日。大爆発魔法の爆風に吹き飛ばされたと思ったら、じつは彼女はいろいろとのっぴきならない事情があって。加えて、なかなかに不器用な人で。
実はこの子、見た目だけじゃなく中身も可愛いんじゃないかと、多少はそう思い直したのでした。
それから約一週間、私のことを根掘り葉掘り聞かれました。話すのはそれなりに苦痛を伴いましたが、時折り涙ぐみながら同情してくれたので、少しずつ、しかし着実に話すことができました。
まあ、しかしこの子はバカですね。同情して涙を流す話ではないというのに。それとも、私がバイアスのかかった話し方をしてしまったのでしょうか。
そして、この世界や彼女自身についても、ある程度教えてくれました。
例えば、この世界には、エルフや獣人など、人間以外にも多くの種族が存在すること。ちなみに彼女は人間とエルフのハーフだそうで、よく見ると耳が尖っていました。ハーフなので、普通のエルフよりも耳は小さいそうですから、まあ、気づかなかったのもしょうがないということで。
例えば、この世界では、魔法の出来不出来がその人の社会的地位をある程度決めてしまうこと。とはいえ魔法が使えない方々もそれなりにいて、魔法が使えなければ人権がないなんてことはさすがにないそう。でも、偉くなりたければ魔法はやはり必須だそうです。
「そりゃあ、魔法使いって言葉があるくらいだからね。魔法が使えない人も当然いるさ」
あるとき、彼女はそう言いました。私は一つ気になって問います。
「魔法使いと魔女って何か違うんですか?」
「民に恵みをもたらすか、害をもたらすかだよ。まあ僕は、マナ放出のために毎日爆発魔法ぶっぱなさないといけないから、当然後者だね」
それが、先代の西の森の魔女さんに引き取られた理由だそうで。この人がこ来て以来、誰も西の森に近づかなくなったそうです。まあ、当然ですね。
とまあ、そんな感じで一週間は経過していきました。ある程度の情報交換が終わったところで、彼女が一冊の辞典のようなものを手渡してきます。
「何ですか? これ」
「私が使う言語の辞典だよ。あいさつから簡単な呪文まで書いてある。日本語で説明してあるから、好きに使うといいさ」
私はずっしりと重さのあるそれを受け取り、ぱらぱらとめくってみます。そこには、英和辞典のような感じで単語が並んでおり、各々に意味や読み方が日本語で記されていました。
「……燃える火。『イグニス・アルデンス』」
思わず、呟いてしまいます。しまったと思って、口を塞ぎます。しかしいくら待てど、火はでてきません。
「唱えるだけじゃだめさ。マナを練らないと」
魔法幼女は言います。私は心底ほっとします。が、一つ疑問が。
「待って下さい。この世界の魔法って、言葉が重要なんですよね?」
ここに来たばっかりのとき、 そんなこと言ってましたよね?
「確かに言葉が重要だとは言ったが、何もそれだけじゃないということ。言うなれば『言葉』つまり呪文は道具。特に魔女や魔法使いには重要な道具だ。でも、道具を扱うには、使い方を学んだり、使えるように鍛えたりする必要があるだろ?」
「なるほど」
取り敢えずは、腑に落ちました。
「使い方というのが、例えば『言葉』の組み合わせであったり、魔法陣であったり。で、鍛えるというのが、マナを練るということだったりする」
「マナって、魔法を使うためのエネルギーの?」
「そう。マナっていうのはこの世界の生きとし生ける大抵の生き物が持っていたり、あるいはその辺に漂っていたりするものだ。で、マナを練るというのは、身体の中にあるマナが大きく、密度の高いものになるように修行をすること。具体的には、自然の中で瞑想したりとか、滝に打たれたりとか、そんなところだ」
マナ。異世界ものであったりファンタジーものでよく耳にする言葉です。この世界におけるそれも、おおよそ似たようなものでしょうか。『マナを練る』というのは、なんというか、心を強くするみたいなことでしょうか。
「そのマナというのは、私のなかにもあるんですか?」
すると、魔法幼女は意味ありげに言います。
「それがね、あるんだよ」
「あるんですか!?」
軽く驚いてしまいます。科学と技術の現代社会から来た私に、そんなものが!?
「そうなんだ。前に呼び出した彼女にはなかったんだけどね」
「そう、ですか」
ふむ、と。
モルモット第一号さんには、マナがなかった。私と彼女は同じ日本人で、年も同じくらい。手記を見た感じ、実は元から特別な力があったとか、そんなことはないようです。ごく普通の、女子高生。私と彼女で違うというか、マナの有無に影響するような違いがあるとすれば……。
「それってつまり、その子が転移魔法で来たから何もなくて、私が転生魔法でここに来たから、この世界仕様の身体になったってことですか?」
「いや、サンプルが少ないからなんとも言えない。それに、この世界は体内にマナがない者もいる。前にも言った通り、魔法が絶対の世界ではないんだ」
「そう、ですか……」
少し期待してしまっただけに、気落ちしてしまいます。確かに、言われてみればそうですもんね。
しかし、彼女はにやりと笑って言うのでした。
「ただ十分にあり得る話ではあると思う。検証の余地はあるね」
その言葉に、私の気落ちした気持ちも和らぎます。彼女の暗い顔というのは、何というか、違和感がありますから。
「さて、と」
彼女はいつもの魔導書(呪文が記された書物)を手に取って、玄関の方へと向かいます。……いやな予感が。
そしてやはり、その予感は当たって……。いや、いつものことだから予感も何もないんですけど。彼女は振り返りつつ、にししと笑って言うのでした。
「今日も今日とてぶっ放す訳だが、君も来るかい?」
「あ、それはご遠慮させていただきます」
私は即答します。
「えー。なんでぇ?」
子供のように駄々をこねる魔法幼女。実年齢が何歳かは知りませんが、本当に子供みたいです。
「いやですね、ちゃんと防御魔法はってくれるならいいんですよ。でも、爆発魔法に集中するあまり忘れちゃうじゃないですか。吹き飛ばされるのはもうごめんです」
私は頭の包帯を指し示します。そうなんです。私がこう言うからには、一度や二度じゃないんです。あんなに心配してくれた優しい子どもと、本当に同一人物なんでしょうか?
「いや、今度こそは気を付けるから!」
私は深く、ため息をつきます。
「そんなこと言って、何度忘れたことか。この包帯が見えないんですか? 私、ここ一週間でずいぶん受け身が上手くなったんですよ?」
何も言い返せない魔法幼女。そして「そっかぁ……」と背中を丸めつつ、彼女はとぼとぼと出ていきます。
その様子にまた、私はため息をつきます。ため息をつきつつ、彼女から受け取った翻訳の辞典から、防御魔法の呪文を探すのでした。
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