第2話 あなたの魔法を見せて下さい
○登場人物
主人公:日本の女子高生。魔法に興味を持つ。卑屈で冷静。
西の魔女:白髪の幼女。魔法大好き
『とある異世界の国の最西端にある都市。そこからさらに西に広がる森の最奥に西の魔女の住処があります。西の魔女はこの世界のあらゆる呪文に精通しており、言うまでもなく、この世に存在する全て魔法が使えるという』
こんにちは、私です。昨晩は全く眠れず、朝方にようやく眠れたと思ったら、お昼を過ぎていました。夢かと思って頬をつねったり顔を洗ったりしましたが、やはり現実のようです。それに、確かめた限りでは、身体にまったく傷がないのも不思議です。トラックに地面に身体を強くぶつけたというのに、本当に不思議です。
私は今、山積みの本に取り囲まれた椅子に座って、以前西の魔女に呼び出された日本人の手記に目を通しています。この家には、それこそ県立図書館がいくつも建ってしまいそうな数の蔵書があるのですが、無論その殆どは当然ながら現地語で記してあるそうなので、何が書いてあるのかさっぱりわかりません。その中で、私が読めそうな数少ないものとして紹介されたのが、モルモット一号さんの手記なのでした。
「相変わらず誇張してあるなあ」
背伸びして覗き込んでくる白髪の女の子こそが、あの西の魔女ということになります。私をこの世界に呼び出した張本人です。
「僕が使える魔法は、ほんの一部に過ぎないよ。まったく、あいつは僕を過大評価しすぎなんだ。用を足している途中で転移させられたというのに、まったく僕をうらんじゃない」
可哀そうに。私だったら恨みますよ。まあとりあえず、咳払いをして。
「そのことなんですが」
頭を抱える彼女に頼みます。
「あいつが下半身すっぱだかだったことか? 安心しろ、やつはお前とそう変わらんくらいの女だった」
「そのくらいは読めばわかりますし、そもそもそっちじゃないです。昨日の今日で申し訳ないのですが、一つ、魔法を見せては頂けないでしょうか」
というのも、あらゆる魔法だとか、一部の魔法だとか。そんな抽象的なことを言われても、この世界において魔法、ひいては魔女というのがどういう立ち位置なのかわからない以上、その凄さがわからないのです。というかそもそも、この世界の魔法がどういうものよくかわかってないので、凄さもへったくれもないのですが。
「いいよ」
つまらないボケを軽くいなされたというのに、彼女はあっさりと承諾。というかすごく嬉しそう。こちらから頼まなくとも、とは思っていましたが、歩み寄りは大事ですから。それに、私も魔法には興味がありますしね。
という訳で、外に出ます。眼前には、鬱蒼とした樹々の影。それは風に揺れる壁となって、周囲を取り囲んでいるようです。窓から見た景色とか手記とかで何となくはわかっていましたが、こうして目の当たりにすると圧倒されるものがあります。まさに、魔女の森。ひとたび入ってしまえば、二度と出てこれないのではないでしょうか。
「ここに、一人で?」
「そう。ずっと一人」
彼女は、そう答えました。森が、ざあざあと揺れています。
「さあ、やろうか」
彼女は呟いて、それから、何かを唱え始めます。呪文なのでしょうが、もちろん、何を言っているかわかりません。そういえば、この世界の魔法は言葉や呪文が重要だとかどうとか言ってましたね。そうなると、この現地語を理解しないと、魔法がどういうものかわからないじゃないですか。失敗しました。
しかし、そんなことを気にしている余裕などありません。何と言うか、何か大変なことが起ころうとしてます。なんだか周囲の空気が一気に重くなって、森が「ざあざあ」ではなく「ごうごう」と唸り始めたのです。
後退って、見上げると、空を覆う紅い魔法陣。
そして魔法陣から一瞬、光の線が走る。
その瞬間、鼓膜を割くような爆発音とともに、私は後方に吹き飛ばされます。咄嗟に頭を守ったおかげで死にはしませんでしたが、家に打ち付けた身体全体に衝撃が走ります。守ったはずの頭にも、同様に衝撃が走ってします。
花壇のような場所に転がった状態で目の当たりにしたのは、迫りくる熱を帯びた光……、いえ、炎の壁。それは樹々を何でもないように飲み込んでいきます。
白髪の魔女が立ち上がって、駆け寄ってくるのがみえます。彼女も、吹き飛ばされたのでしょうか。自分で撃っといて、すごい間抜けですね。何かすごく慌てて、すごく謝ってきて、心配しているようですが、ごめんなさい。何を言っているか、わかりません。
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