第9話 伏線を、作る。

(綾乃のフェラチオ、絶品だったって)

 

 携帯の画面を見せながら綾乃にささやく亮介。


「ほんと? 恥ずかしいな……」


 綾乃が照れながら舌をペロっと出す。


「嬉しいね。あ、一応T君の連絡先を綾乃にも共有しておくね。なんかあったら直接やりとりしていいからね」


「え……」


 ニヤつく亮介。

 少し戸惑う綾乃。それには理由がある。



 ◆



 上書きを重ね、眠気も強くなってきたピロートークでのこと。

 

「それでね、なんかまだあたしのこと何も知らないはずなのにT君ったらの」


「へぇ、どういうこと?」


「ぎゅーってされたり、押さえつけられたりってあたし拘束されるの大好きじゃない? そういうのとか、なんか絶妙な感じでしてくれるの」


 気が合うというのとは違う。息が合うというべきか。したいこととされたいことが不思議と一致する、そんな組み合わせが存在する。綾乃にとっての亮介がそうであるように、T君もどうやらそういう男性だったということになる。


 綾乃は今日だけで何回かわからないぐらい抱かれた、それも二人の男に。


 そんなセックス三昧ざんまいの一日の終わり、眠気も相まってその横顔には屈託のなさとまた抱かれたいという本音が漏れている。亮介の頭に、ちょっとした悪巧わるだくみが浮かんだ。

 

「じゃ、俺がいない部屋でT君に抱かれても大丈夫そう?」


「う……う〜ん……。そう……かも。あ、でもまだ知り合ったばっかりだし、二人っきりはね……」


 微笑みは切らさず、天井をぼんやりと見つめる綾乃の横顔だった。

 

 ◆



 初夏の日差しが車窓から見える景色を白く飛ばしている。旅先での思わぬ邂逅かいこうは、ただでさえホットな新婚の二人に思わぬ刺激をもたらすこととなった。亮介は行動する度に、一樹の当時の気持ちが手に取るようにわかっていく。


「あのドライブのことを思い出すね」


「そうだね。行かなかったけどね、アウトレットには。うふふ」


 一樹が亮介に綾乃を託した貸し出しプレイ。みなまで言わずとも何があったのかは綾乃の脳裏にすぐに浮かび上がってきたことだろう。亮介はそう思いながら綾乃の内ももに指を走らせる。


 

(大事な大事な綾乃を一人で他の男のところに行かせるなんて、したくない)

(でも、一樹の妻として俺に見せてくれたあの表情。それをT君にも見せるって考えたらすごく興奮する)

(T君なら信頼できそうだけど、まだ一度しか会ってないわけだから慎重を期すべきだ)

(俺には言ってないけど、綾乃はT君に割と気があるはずだ)


 

 いろいろな思いが逡巡しゅんじゅんする。コートの下では綾乃の蜜が絡みつき、亮介の中指をふやけさせていくのだった。

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