第4話 豚キムチが繋いだご縁

 7時の朝食を前に、二人は微睡まどろみの中でどちらからともなく愛撫を楽しみ始めていた。


「いいこと考えた」


 亮介は通りに面していない方の窓際に立ち、ブラインドを半分ぐらいまで開けた。


「すごい、遠くの山が見える。綺麗……」


 窓際に頭を向けながら仰向けにベッドに横たわる亮介を見て、綾乃が問う。


「どうしたの?」


「俺の顔に跨ってよ」


 朝の光の中で爽やかに微笑む亮介だったが、言っていることは淫靡いんびだった。


「でも、それじゃ見えちゃうじゃん……」


 そう言いながらもバスローブの裾を上げながら従順に指示に従う綾乃。亮介は益々綾乃を愛おしく思うのだった。


「……ぁあん」


 顔面騎乗にも慣れてきた。亮介に初めてさせられた時のことははっきりと覚えている。拘束もされたし、イラマチオも……。思い出すだけでジュンジュンしてくるが、シーツに乱反射する朝日の中で綾乃は女の幸せを感じていたのだった。


「亮介……あん、気持ちい……い……恥ずかしいよお……」


 綾乃のラブジュースまみれの陰毛が亮介の顔をブラッシングしている。とても綾乃がこのような卑猥な動きをしてくれる。その嬉しさは愛情となり、亮介の舌から綾乃の花びらに伝わっていく。


「四つん這いになってね。後ろから突かれる姿をみんなに見てもらおう?」 

 

 階数も高いし、周辺の建物の方が低い。誰の目にも触れることはない。それでも、大きな窓に向かって鳴きわめく顔を隠せないというのは綾乃の羞恥心を激しく刺激する。


「ぁああ! あ、あ、あ、あ、あ、ぁあ!」


(なんて幸せなんだろう、あたし……)


(でも、本当に誰かに見られながらだったら、どんななんだろう……)


 新しい感覚に気を取られながら視界――といっても瞼は閉じたままだ――が段々と白くかすみがかかっていく。体を支えている両腕と両足はとっくに無意識下だ。自分の実体が身体・物理的なものではなく脳や意識といった無形のもののように思えてくる頃、綾乃は絶頂とともに白い海に飛び込んだのだった。



 ◆


 

 予定より30分遅れで朝食バイキングに到着。和洋充実したメニューの中、ご当地メニューも並んでいる。食べ過ぎないように注意しながら選び、二人は席についた。


「そうそう、夜は小なんとか堂っていうお好み焼き屋に行こうと思うんだ」


「へぇ〜、どんなお店なの?」


「広島出身の同僚に教えてもらったんだけど、何食べても美味しいらしい。ていうか豚キムチが妙に旨いんだって」


「あはは。もうそれお好み焼きじゃないじゃん」


「ほんとだね。それで、名前をど忘れしちゃった。小、小、小……なんとか堂。う〜ん」




「小角堂じゃないですか?」




「そう! それだ!」


 テンポの良い掛け合いが成立した。助け舟を出してくれたのは隣の席で食事をしている青年だった。


「すみません、しゃしゃり出ちゃって……」


「いや、いいんですよ。それより助かりました。どうしても出てこなくて」


 と、亮介は喉を人差し指でトントンとジェスチャーした。


「豚キムチでピンと来たんです」


「よく行かれるんですか?」


「はい。広島出張の夕飯はほぼ毎回ここですね」


「そうなんだ〜、なんかあたしすごく惹かれてきた」


あっと言う間に三人の会話の空気ができた。初対面でも合う人とは合うものだ。


「いいこと考えた。あの、よかったら今晩ご一緒させてもらえませんか?」


「いいんですか? お二人の邪魔にならないですか?」


「いえいえ。みんなで食べた方がおいしいと思うし、ね」


 綾乃はそれに応えてニコリとううなずく。この親切なT君は29歳の営業マン。亮介は早速連絡先を交換し、夜18時に店の前での待ち合わせとなった。

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