第3話 新幹線での戯れ

 カップルなら新幹線は当然D・E席だ。


 乗り物は嫌いじゃ無いし景色を楽しみながらの旅も大好きな二人だが、なにしろ新婚ホヤホヤである。たとえ数時間でも愛し合えるだけ愛し合いたい――。そんな二人が知恵を振り絞った結論、それがスプリングコートだった。


 荷物を棚に置き、座席に腰掛けてひじ置きを完全に上げてベンチシートのようにする。椅子の角度も調整し、二人にとってのベストな状態を作る。次に、各自のコートで下半身を覆うとその下で性器をあらわにさせる。亮介はチャックを下ろしてペニスを、綾乃は股を開く。お互いの手は相手の気持ちいいところを優しく愛撫する。


「あれ、もう……なんか既に」(笑)


 綾乃がいたずらっぽく微笑みながら言う。負けずに亮介は右手中指先をクロッチの上から上下させる。


(ぁ……)


 無言だが、綾乃の潤んだ目と半開きの口を見れば何がどうなっているのかは余裕でわかる。


 「あれ? もう……なんか既に」(笑)

 

 全く同じセリフで綾乃に意趣返しいしゅがえしする亮介。次の駅を出た頃にはもう綾乃の息遣いも荒くなってきた。


(お願い……指……入れて……)


「え? 何?」


 小声でささやく綾乃の懇願。亮介は本当に聞こえていないのかどうか。


「意地悪……」


 綾乃が吐息混じりに呟いたその瞬間、指先は蛇のような俊敏さで綾乃の濡れた秘窟に滑り込む。


(ぁああ!)


 声は出さずに済んだが、綾乃が思い切り空気を吸う音だけは隠しきれなかった。通路を挟んだ隣のA席のサラリーマンが一瞬こっちを見たような動きをしたように亮介は横目で感じた。


「う、ウウン」


 ベタだが綾乃が咳払いをしたのでなんとか自然な収まりがついた。


(ちょっと〜危なかったでしょ……)


 半分怒り顔の半分笑顔で綾乃がツッコむ。


 (ごめんね)


 ちょっと調子に乗りすぎたかと亮介は反省して指の動きを少しだけ緩めた。

 

 たとえそれが移動時間であっても、二人でいるといつでも時間はあっという間に過ぎてしまう。


(後悔しないように一緒に過ごして行こうね――)


 そう思っているうちに列車は新神戸を過ぎ、岡山が近づいてきた。

 

「そういえばさ、あたし広島風のお好み焼き食べたことないんだよね」


「へえ〜! あんなに美味しいのに。ま、でも世の中の大半は関西風って感じあるからね」


「そうだよね。お店もあんまりないでしょう?」


「うん。俺広島派だからいつも店探しで苦労する」


「楽しみだな〜。画像では見たことあるけど味の想像がつかない」


「初めて食べるんだね。ある意味羨ましい。どんなリアクションするか俺も楽しみだよ」




 ◆



 広島市内中心部で循環バスを降りる。ホテルまでは数分といった距離。知らない街を二人で歩くのは毎回胸がいっぱいになる。自分たちのことを誰も知らないし、特に興味関心を持って近づいてくることも無い。それを孤独や寂しいと捉える人もいるだろうが、綾乃と亮介にとってはこの上ないとしていつくしむのだった。誰にも邪魔されずに、二人だけの世界を二人だけで楽しむのだ。


 チェックインした部屋は2面彩光の角部屋。そのうち一面はバスルームだ。


「見て見て〜、すごいすごい! お窓も大きいしお風呂に浸かりながら下の大通りが見える!」


 事前に画像で確認していたが実際の臨場感たるやかなりのものがある。綾乃が喜んでくれて亮介は心から嬉しかった。

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