第15話 魔女の視線②
セレーナはアルトのことを考え、軽くため息をついた。
アルトは、フォルスター家の財産を狙っているだけで、セレーナに対する愛情などなかった。最初に会った時の様子も、自分に惚れさせ、利用しようとする目論見が明らかだった。
(アルトがセレーナを選んだ理由は明白。愛じゃなく単なる打算…でも、バイオレットに対してはかなり後ろめたい罪悪感をもっていた……あの気持ちに打算はなかった。つまり彼の中にも未練があるのかもしれない)
だが問題は、彼の背後に控えているセバスチャンだ。
彼は冷静で計算高く、バイオレットの幸せを願いながらも、アルトをセレーナに引き合わせる計画を進めている。
セバスチャンが全てを操っている限り、セレーナの介入は容易ではない。
(セバスチャンをどうにかしないと、バイオレットとアルトの関係は壊れたままね)
この計画を実行するにはまずはアルトを変える必要がある。彼の浪費癖、無計画さは、バイオレットとの結婚を考える上で大きな障害となるだろう。セレーナがこれまで見てきたアルトは、貴族としての立場に甘えすぎており、責任感も欠如している。
(まず彼をまともな状態に戻さないと……浪費癖を直させて、もっと真剣に自分の人生と向き合わせる必要があるわね)
セレーナは計画を練りながら、アルトの変革を心の中で決意した。彼が本当の意味で成長し、バイオレットと結ばれるにふさわしい男になるには、まず自分の力を使って彼の弱点を取り除かなければならない。
だが、もう一つ重要なことがあった。
(バイオレット……彼女自身は結婚に何を望んでいるのか?)
セレーナは、バイオレットの内面をもっと理解する必要があると感じていた。彼女の理想や、結婚に対する価値観を聞き出し、それに合わせた環境を整えなければ、どんな策略も成就しない。表面的な「主人公令嬢」としてのバイオレットではなく、本当の彼女を知ることが必要だった。
(まずはバイオレットとの信頼関係を築くことが最優先。彼女の心の内を聞き出すには、もっと彼女に近づく必要がある)
セレーナは馬車の揺れに身を任せながら、バイオレットとの初対面でどうアプローチするかを思案していた。バイオレットは多くの人に慕われ、優しさと公正さで知られる存在だが、表面的な良さだけで信頼を得られるほど簡単な相手ではないだろう。
(バイオレット……彼女は表向きは純粋で無防備な令嬢として知られている。あの笑顔と優しさが、多くの人に愛されている理由。でも……本当にそれだけかしら?)
セレーナは舞踏会でのバイオレットの姿を思い出す。アルトに未練を抱きながらも、その感情を表に出さずに微笑んでいたあの瞬間。表面的には可憐で無垢なバイオレットだが、裏には別の側面が隠れているはずだと、セレーナは感じていた。
(無防備な微笑みは、貴族社会での武器でもある。彼女はその純粋さを自覚している。だからこそ、周囲に対して無防備に見せることで、逆に相手の油断を誘っているんじゃないかしら)
セレーナは、アリサの無邪気な性格とバイオレットの「純粋さ」を比較しながら考えた。アリサの純粋さは、完全な無防備さだった。しかしバイオレットのそれは、計算されている可能性がある。
(そう、あの笑顔は彼女の強さでもあり、同時に脆弱さでもあるのよね……)
バイオレットは周囲に優しさを示すことで信頼を得ているが、それが彼女を守ってくれる盾でもあり、貴族社会に生きるための防具でもある。
もしその「無防備さ」を失えば、彼女は攻撃にさらされるかもしれない。彼女は自分を守るために「純粋さ」を武器として使っているのかもしれないが、それが裏目に出た瞬間、弱点にもなる可能性がある。今回のアルトとの婚約破棄が良い例だ。
(彼女は強い……でも、その強さがいつか脆く崩れる時が来る。その時こそ、私は彼女を味方に引き込むべきなのかもしれない)
ふと、隣に座っているアリサが何かを言おうとしたが、セレーナはそれを制するように手を上げた。今は集中したい時だ。だが、そんな時でもアリサの無邪気な存在が、ふとした息抜きになっていることに気づく。
(この子みたいな純粋さを持っている人こそが、実は最大の武器になるかもしれない。貴族社会に疲れている時、アリサのような存在がどれだけ癒しになるか……)
アリサの純朴さを思うと、自然とバイオレットの顔が浮かんだ。彼女もまた、アリサと同じように純粋で、どこか無防備な雰囲気を持っている。
(アリサがバイオレットを怖がるのは同族嫌悪ってやつかもね……)
セレーナは決意を新たにし、馬車が止まる音に耳を傾けた。
「お嬢様、バイオレット様の屋敷に到着いたしました」
アリサが知らせると、セレーナは深呼吸し、馬車の扉を開けた。これから始まる戦いに備え、彼女は気を引き締めた。
(バイオレットの本心を知ることが、ベルトラムを追い詰める第一歩よ……)
セレーナは自信に満ちた表情で、バイオレットの屋敷へと足を踏み入れた。
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