第9話 舞踏会〜攻防のワルツ①
煌びやかな舞踏会場にセレーナとセバスチャンという異色な二人のステップが軽やかに床を滑る。
音楽に合わせて互いの距離を絶妙に保ちながら、二人は静かに言葉を交わしていた。
「あなたは、最近、とても興味深いですね。」
セバスチャンが、セリーナの目をじっと見つめて微笑む。その声には探りと確信が入り混じっている。
セレーナは彼の視線を受け止め、顔に淡い微笑を浮かべた。
「最近?まるで、以前の私が退屈な存在だったと言われてるようです。」
「正直に言えば、そうですね。」
セバスチャンが軽く肩をすくめる。
「以前のあなたは、ただの貴族令嬢に過ぎなかった。少々……自尊心が高く、周囲に気を配ることもなく。」
セバスチャンもアレンと同等にリードが巧い。セレーナは内心を読み取られないように彼に身体を預け、優雅な足取りで一歩を踏み出す。
「ひどい言われようね。今は少し違って見えると?」
「少し、ではないですね。」
セバスチャンは静かに続ける。彼の声には柔らかいが、鋭い意図が含まれている。
「まるで別人のようにさえ感じます……何か大きな変化があったように。」
セレーナは短く息をつき、彼の目をしっかりと見つめ返す。
「人は成長するものですから。あなたの観察力が鋭いことは、感心しますが。」
セバスチャンは軽く笑い、彼女の手にほんの少し力を込めた。
「成長というよりむしろ……違う魂が宿ったような。」
真を突くセバスチャンの言葉が響く。
セレーナはわずかに目を細めた。だが、すぐに微笑みを保ちながら、巧みに切り返す。
「まさか、幽霊や奇跡を信じるお方ではないでしょう?」
「ええ、信じるのは、目に見えるものだけです。……合理主義者ですから。」
セバスチャンは柔らかく微笑むが、その目には深い洞察力が光っている。
「ですが、時には見えないものが真実を語ることもあります。あなたの変化……などね。」
セレーナは冷静さを保ちながらも、彼の言葉が自分の核心に迫りつつあることを感じ取っていた。
「もし私が、私じゃないのなら……貴方はどうするのかしら?」
「その中身……次第でしょうね。」
セバスチャンの声が一瞬だけ低くなる。
「ただ、魅力的な変化です。今はあなたに……とても興味が掻き立てられます。」
セレーナは少し肩をすくめると、軽やかなステップに合わせて彼の目を見つめ返す。
「それは光栄ですわ。でも……何を期待しているのかしら?」
セバスチャンの微笑は崩れない。
「期待というより……あなたの本当の姿を見てみたい。
ただそれだけです。」
「本当の姿?」
セレーナはその言葉に挑むように微笑む。
「それを見たところで、あなたが失望しないとは限らないでしょう。」
(この世界に、婚活カウンセラーなんて職は存在し無いでしょうけど)
セバスチャンは一瞬だけ視線を外し、再び彼女をじっと見つめる。
「いえ、むしろ……予想外の喜びを与えてくれる気がします。」
セレーナはこれまでのやり取りで、彼が何かを明確に感じ取っていることを確信した。
そして一歩先を行くために、勝負に出る。
「では、率直にお聞ききます。あなたは私とどうしたいのかしら?」
セレーナが直球の質問を投げかけた瞬間、セバスチャンは一瞬だけ目を細めた。だが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻る。
「今の気持ちを率直に言うなら、今夜貴女を抱いてみたい。……ですかね。」
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