第1話 ざまぁ回避!悪役令嬢の覚醒
目を覚ましたとき、真奈美は柔らかいベッドの上に横たわっていた。
天井には見たこともない豪華な装飾が施され、異世界のような光景が広がっていた。
体を起こすと、彼女は自分が着ているドレスに目を見張った。まるで時代劇にでも出てきそうな、繊細な刺繍が施された貴族風のドレスだ。
「え? 何このドレス……ここ、どこなの?」
部屋の外から誰かがやってくる気配がする。
扉が開き、メイドのような姿をした女性が入ってきた。彼女は真奈美の顔を見るなり、深々と頭を下げる。
「お目覚めですか、お嬢様。今日も婚約者様とのお茶会が控えておりますので、ご準備をお願いいたします」
婚約者? お嬢様?
「え、ちょっと待って、どういうこと?」
「お嬢様……昨夜のお酒が過ぎたのでは?もう少しお身体を労わってくださいませ」
真奈美は混乱しながらも、鏡に映った自分の姿を見て、さらに驚愕する。
そこに映っていたのは、今の自分ではなかった。顔は若々しく、肌は透き通るように白い。まるで異世界の王女か貴族のようだった。
「え……なにこれ、まさか誰かに……転生した?」
現実離れした状況に呆然としながら、真奈美は異世界の貴族令嬢、セレーナとして新しい人生を歩み始める。
しかし、その新たな世界でも、彼女を待っていたのは一筋縄ではいかない結婚事情と陰謀の数々だった。
「お嬢様、準備が整いました。さすがは王国が誇る至宝とまで称されたセレーナ様……大変お美しいです」
(たしかに、この美貌はやばいわね)
しかし、その驚きよりも、心の中に広がる違和感が大きくなっていた。
「でも、これは……夢じゃないの?」
「ご冗談を。セリーナ様であれば、婚約者デュラハン様が虜になるのは当然です。さて、お茶会に向かいますか?」
「ねえ、私って一体どんな設定なの?」
そう自問した瞬間、突如として脳裏に映像が駆け巡った。大量の記憶——まるで嵐のように、知らない出来事が頭に流れ込んでくる。
それは、この身体の本来の持ち主、セレーナ・フォルスターが歩んできた人生そのものだった。
「……痛っ!」
頭を抱えながら、
———「あなたなんか、所詮私にはかなわないのよ!」
主人公令嬢に向けて放った言葉が頭に響く。令嬢の顔には涙が浮かび、その背後にいた婚約者のアルトが、冷たい目で見守っている場面が強烈に記憶に残る。
さらに、もう一つのシーンが脳裏をよぎる。
———「これでアルト様は、私のものよ!」
彼女は麗しい貴公子アルト・デュラハンを主人公令嬢から奪い取った。しかし、それは強引なもので、
しかもセレーナは異常にプライドが高く、おだてに弱い。さらに世間知らずで思慮に浅く、計略等には無警戒な人物らしい。
「これはまずいわね……」
冷や汗が背筋を伝う。頭の中で、断片的な記憶がつながり、全貌が見えてきた。
(私が転生したのは、さんざんいじめた主人公令嬢の婚約者を奪った悪役令嬢、セレーナ。しかも、その婚約者が実はクズで、結婚後に破産、家が没落し、『ざまぁ』される……そんな未来!)
(なんてこと……この世界では、私の婚活カウンセラーとしての洞察力が、異様に鋭くなっているみたい)
過去の記憶からでも、人の感情の細かい変化が、まるで手に取るようにわかる。相手が嘘をついている瞬間、その目の揺れ方、息遣い——以前なら微妙な違和感でしかなかったそれが、今では「答え」として確信を持って感じ取れるようになっていた。
「ちょっと待ってよこれ、マジでまずいじゃない……異世界に来てまでこんな目に遭わされるの?」
「お嬢様?……さっきから何をおっしゃってるのですか?」
このメイドの名前はアリサ。記憶を辿る限り、この子だけはマトモで純粋にセレーナを信奉する田舎娘だ。
しかし目の前が真っ暗になる。自分の今の状況はとにかく最悪だ。このまま何も手を打たなければ、自身はおろか、一族の破滅が目に見えている。
これは前世の真奈美から引き継いでいる癖。このルーティンでいつも集中力を高めるのだ。
「セレーナ様、本当に大丈夫ですか?お気分が優れないならば無理には……」
メイドのアリサが心配そうに
このままでは、この娘も路頭に迷うことになる。悪役令嬢のメイドなど、主人の没落後は惨めな人生しか待っていないだろう。
まず、この世界で一番避けなければならないのは、クズ婚約者アルト・デュラハンとの結婚。彼は外見こそ美しいが、実家の財産を浪費し尽くし、借金まみれの男だ。
婚約した瞬間にセレーナ家の資産も食い尽くされ、破滅の道へ突き進む。そんな「ざまぁ」エンドは絶対に避ける。
そう心に決めた瞬間、表情が引き締まった。
かつて数々の婚活戦場を生き抜いてきた経験が、今こそ力を発揮する時だ。
「アリサ……私にまかせなさい」
「お嬢様、よろしいのですね?」
メイドが問いかける。真奈美――今やセレーナは微笑みながら答えた。
「ええ、もう準備は整ったわ。行きましょう」
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