第2話 下に見てると後悔するわよ


 豪華な庭園で行われるお茶会の席に、真奈美セレーナは悠然と現れた。目の前には麗しい貴公子——いや、クズ中のクズ、アルト・デュラハンが座っている。優雅に笑みを浮かべ、彼女に向かって手を伸ばしている姿は、外見だけなら確かに誰もが憧れる存在だ。


「セレーナ、今日も君は美しい。こうして君と会えるなんて、僕は幸せだよ」


 甘い言葉。しかし、その裏にある偽りを、真奈美セレーナは一瞬で見抜いた。彼の作り笑い、虚ろな目、そして表面的な言葉の選び方——全てが「演技」であることがわかる。


(この男、本当にクズね)


 真奈美は内心で冷笑する。この男がどれほど外見に頼っているか、その内面がいかに空虚であるかが、手に取るように感じられる。そして、何より彼の焦りと下心——それが透けて見えていた。


「……そう。ありがとう」


 彼女は冷静に微笑んで返した。従来のセレーナなら、ここで彼に舞い上がり、そのまま破滅に向かって一直線だっただろう。しかし、今の彼女は違う。この婚約は——。


「君との結婚も、きっと祝福されるだろうね」


「そうね……でも、その前に一つ、確認したいことがあるの」


 真奈美セレーナは、優雅にカップを持ちながら、にっこりと微笑んだ。その笑顔の裏には、冷静に張り巡らされた計画があった。

 彼女の目は、アルトのわずかな表情の変化や仕草を逃さない。先ほどの甘い言葉の裏に、何かを隠そうとしている気配が読み取れた。


「アルト様、実は最近……あなたのお屋敷が少し賑やかになっていると耳にしましたが、何か特別な理由でも?」


「……セレーナ、なぜそんな話を?」


 真奈美セレーナの言葉に、アルトの顔が一瞬、固まった。呼吸が浅くなり、目が一瞬泳いだ。

 彼はすぐに笑みを作り直そうとしたが、そのわずかな動揺を見逃すことなく、 真奈美セレーナは続けた。


「いえ、あまり贅沢をされると、結婚前に妙なウワサが立つのも困りますから」


 その質問に、アルトはさらに動揺を隠せなくなった。頬がわずかに引きつり、手が震えているのが見える。


(よし、効いてるわね)


 彼の偽りの笑顔が、少しずつ崩れ始めているのを感じた。これが真奈美セレーナにとっての最初の一歩。

 磨き抜かれた洞察力を駆使し、このクズ婚約者、そして陰謀のシナリオとの戦いが、今始まるのだ。


(ざまぁフラグ?そんなもの、絶対に私は回避してみせる!)

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