白装束、走る。

僕は、と彼が言った。

何を考えていたのだろう、いや何も考えていなかったからか。私も「僕は」と言ったのだ。

もちろん中継は回っている。彼女もえ?と言う表情でこちらを見てきた。

ずっと前からと彼が言う。

私も続けて言った。なんの恥ずかしさもなかった。

好きでしたと彼が言い、私も言った。

そこでほぼ初めて彼女と目が合った。

彼女も驚いたような顔で、「やっぱり?」と言った。

撮影スタッフは困惑し、我々にハケろと手で合図を送る。それは確かにそうだ。今は中継されている。大多数の茶の間へ。しかも白装束だ。

彼女は少し顔を赤らめ、私も!と言った。私は驚いた。

「好きだった時期はあったわ、それはね」

呆れたスタッフの一人がちょっと!と止めに入る。

「でもあなた一度私を振ったでしょう!」と彼女が言う。確かに私は彼女を振った。

命懸けで小説を書くためだ。

その時私は、当時から優秀である彼女とは一緒にいられないと思ってしまったのか、そう答えてしまったのだ。私はそのことを後悔している。

どうしよう、どうしようと私は言葉を探す。探す。

やめてくださいとスタッフの彼が言う。

私は思い思いの考えを振り絞り、こう言った。

「僕は今日一度、死にます。

小説家の自分を捨てます」と。

「だからもう一度、もう一度だけチャンスをください」私は精一杯を込めて言った。

少し考えた上で彼女は、ばっと顔を上げてCMの後!と言った。


ちょっと困りますってとスタッフに我々は怒られた。

白装束Aは頭を下げ謝った。私も同じように謝った。

ごめんなさい、と彼女も謝っている。

「もしかすると、クビってのもあり得るからね!次のシーンはちゃんとやってもらわないと!」

と言われ、彼女は俯いたまま再び謝る。

カメラだカメラだ!と子供たちはこちらへ寄ってくる。

私は先ほどの発言を白装束Aの彼に謝った。

死にます、なんて言ってと。

彼は笑っていた。まったく上手いよなんて言って。

再び彼女の方を見ると俯いたままだ。

私は彼女の顔を見ていることしかできなかった。


本番いきますよ、5、4とカウントが来た後で

スタジオと中継が繋がるらしい。

彼女は表情を変え、仕事の顔を見せた。

「はい、とても活気のある町です。皆が一丸となってハロウィンを盛り上げています。はい、ええ、え?そうですか」

なんのことだからさっぱりだったが、やっと知れた。CMの後を。

「それはですね、OKです」

私たちは肩を掴み合いながら大喜びした。それはそれは喜ばしく、私はガッツポーズをした。

以上中継でした。と彼女は言い、撮影が終了した。

だめだよと説教をされる前に私は彼女の手を取った。

驚いた彼女もすぐに笑顔になった。

走りながらどこへ行こうかなんて話をしている。

あなたってそういう人だったのねと言われた。

どちらの意味かわからなかったのでとりあえず「ああ」と答えた。私たちは子供のように走る。

全力でこの田舎道を走る。私は白装束のまま。


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