鎌と魔女と白装束。

私は言われるがままに彼を追いかける。

彼はそっと後ろを向く、

「ほんと急でごめんなさいね。急遽急遽。

みんな乗り気じゃないんですよ、やっぱりこう、なんというか、伝統ってのは守っていかないとじゃないですか」

私はすぐに聞いた。「去年はどうだったんですか」

「去年は、やってない」

伝統という言葉を調べようと思った。

彼ははテヘという顔をしている。

「それこそ?人がいなくて?それこそ?水の泡?」

「それって、伝統?なんですか」

と私は聞いた。

「ちょっと前まではね、やってたんですよ。それがまあ子供は町を出るわ、そんな祭りやりたかねえだわ。そんなもんなんですよ」

私はへえと言った。

「今年はね、テレビ局も来るんですよ!」

そんな祭り、誰が見るんだ?と思ってしまった。

とにかく彼はやる気に満ちていた。


「ここが、町の会館です。ここから脅かしがスタートします。お、じゃあ紹介しますね」と彼は誰かを呼び止めた。その姿はさながら霊媒師のような格好をしている。

「自分の父です」

「その方は」と彼の父が言った。

「旅人さんです」と私を旅人だと紹介してくれた。

「今日の祭りを手伝いに?」

と私が言う前に白装束の彼がはいと返事をした。

私はどうも頭でこう考えてしまう。

おそらくこの霊媒師のような男性もおどかし役として参加するであろう。

私は祓う方だろと頭の中で考えてしまった。

頭の中で。

「どうぞ、よろしくお願いします」

と律儀に礼をもらったので私も頭を下げた。

「そしたら、ね、白装束に着替えましょうか」

危うく忘れていた。

そう、私は今夜おばけになるのだ。


メンバーは四人いた。

私と同じ白装束の彼、30代くらいの魔女?さん。

50代のタンクトップを着用し鎌を持った男性。

私は目を疑った。ジャンルを混ぜすぎだと。

せめて統一してほしいと。

しかも鎌だ。本物の鎌だ。タンクトップだ、

と私の頭の中はもうごっちゃごちゃである。


気づけば辺りは暗くなり始めている。

白装束の彼は白装束の彼の弟であることが判明した。

紛らわしいので

最初の白装束はAとし、弟はBとする。

白装束Aが私たち4人を指導するようだ。

「それじゃあいきますよ」

と彼は扇子のようなものを振り上げ、

うらめしやー!と言った。

私は3人と遅れてうらめしやと言った。

私はなにをしているんだろうか。

ふと我に帰る。私はなんのために

この場所へ来たのか。何をするべきなのだろうか。

次に彼はおばけだぞー!と言った。

我々もおばけだぞーと言った。

よし、と白装束Aが言う。次はちょっと長いですよ、と彼が喉を鳴らし、いちまーいと言った。

私たちも続いていちまーいと言う。よく考えてみると面白い絵面だ。

魔女が、鎌がいちまーいと皿を数えているのだ!

私は再びこんなことを思い出してしまった。

"鎌をかけられる"と。あの占い師が言っていたのだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る