断片小説
雛形 絢尊
秘境の駅と白装束。
あなたちょっと旅でもいきなさいと、
先日占い師に言われた。
だからと言うことではないが、私は今秘境にいる。
山間にあるとある駅。駅前だというのに売店のひとつすらない。あるとしてもシャッターを閉めている。
私はどういうわけだかこんな場所にいる。
私は小説を書いている。
昔から物書きという職業に憧れを抱いていたのだが、それは至って上辺だけの話で、自分の連ねた言葉でお金を稼ぎたい、そういった理由である。
まだ大した作品を書けているわけではないが、
私は自信を持って小説家だと言い張る。
とにかく私は、舗装された階段を下っていく。
まだ人っ子一人も見かけていない。
家はあるが人がいないのだ。
私はそんな場所でアイデアを探しにきたのだ。
先日占い師にも言われた「好きな人を探しなさい」
という台詞。あれは少し気になる。
今まで色恋沙汰を経験してない私からすると期待するような出来事が近々来る。
それはもちろんこの場所ではないことは明白だ。
私は河原に降りた。
それはそれは凛とした川の流れ、せせらぎ。
都会の疲れを癒すにはやはりこうしたものでないと。
私は必死にアイデアを探した。が、
30分経っても一つとしてアイデアが出てこない。
私は嘆いた。頭を抱えた。
人がいないことにまた気づき、再び頭を抱えた。
いや、どうしようと。私はこんなところまで来て何もしていない。何もアイデアを出せずにこんな場所に来てしまうとは。しかもアイデアを出す前にあの占いのことが浮かび上がってしまうとは。
私は分かりやすくその場をあたふたした。
側から見れば変質者だ。
河岸の向こうのほうからおーいおーいと声がした。
私は見られた!と思いそちらに目を向けると
そちらも見られた!と顔を驚かす白装束の男性がいた。
私は幽霊だと思い、その場から立ち去ろうとした。
男性は手招きをする。頭にも何かつけている。
私は大の怖がりである。あんなにリアルなものを見てしまうとは。それは本当に人のようで。
「まだそっちには行けません、小説を書きたいです」
と私は最大限の声を振り絞って言った。
男性は「そっちもなにも同じ河岸から招かないでしょ、幽霊だとしたら反対側だよ」と言った。
私は何故だかまだ信じられず、
目を2、3回瞑ったりした。
やはりまだいる。見てしまった見てしまった。
わ!と男性は私を驚かせた。
私は死に物狂いで驚いた。男性は笑っていた。
やはり見てしまった。幽霊だ幽霊だ。
「人間です」
「幽霊」
「人間です」
そんな会話を繰り返していると、私は何も考えず、
「じ、じゃあ人間である証拠、見せてくださいよ!」
それこそおぼつかない言葉で。
男性は、少し悩み
「じゃあいきますよ」
と私は彼を怯えながら見ていた。
彼はそのまま水面に入ったのだ。
私はなんとか信じ、話を聞くことにした。
「今日、この地区でおどかしまつりがあるんですよ」
おどかしまつり?と私は考える。
「そう、おどかしまつり、ここの地区伝統で。あ、ナマハゲみたいなもんです。ただ家に入ったりとかはしないんで地味ですけど。なんか適当にうらめしや、とかあーーとか言ってればいいんで」
私の頭はぽかんとしていた。だがなんとも言えぬ高揚感で彼が言い終わった直後「出ます!」と大きな声で言った。
「よかった、若い人探してたんですよ、こんな田舎若い人自分くらいしかいないんで」
私は彼にこっちだと案内され、後ろをついていく。
そんな時に思い出したのだ。占い師に言われた一言。
"あなたはおばけになるのよ"
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