第25話 初デートにサイゼリヤでもいいじゃない!!!

『劇場版 魚介戦隊カイセンジャー』は思った以上に面白かった。

 子供向けとは言いながらもストーリーは感動できる内容で、海洋資源とか生態系とか環境汚染とか、そういった社会的問題を考えさせられる深いものだった。海だけに。


 私は映画の内容に感心している一方で、隣りに座っていた潤之介くんは終始役者の演技について食い入るように観ていた。彼は彼で満足しているようで良かった。

 

 シアタールームを出てから、お腹が空いたのでファミレスに入ることにした。

 いつも潤之介くんと食事をするときは我が家で私の料理を食べるので、ファミレスとはいえ外食するのはなんだか新鮮だ。


「果穂さん、何食べます?」

「うーん、どれも美味しそうだけど、私の場合こういうときって自分で作るのが面倒だなーって思うものを頼んじゃうんだよね」

「へえー、例えばどんなのっすか?」

「そうだなぁ、このお店のメニューで言ったらミラノ式ドリアとかかな?」

「ドリアって作るの面倒くさいんですか?」

「パスタとかハンバーグに比べたら面倒くさいかなって思うよ。ホワイトソース作るのって手間かかるし、何気にごはんはターメリックライスだし、ミートソースとチーズも用意して、あとは耐熱皿も使わないといけないし……」

「温玉トッピングとかしたらもっと大変っすね」

「もう大変大変。いまいち温玉茹でるの苦手なんだよね、うまい具合に茹で上がらないというか……」

「へぇ、果穂さんでも苦手な料理ってあるんすね」


 温玉を料理と呼んでいいかどうかは別として、暗に私の料理が上手だと言ってくれる潤之介くんの言葉にちょっと嬉しくなった。

 気が乗ったので、温玉が乗ったミラノ式ドリアと食後のティラミスを注文する。


 料理が来るまでは、先程の映画の感想発表会になった。


「――やっぱりかっこいいっすよね、ああいうヒーローもの」

「そうだねえ。昔、私の友達にもヒーローものが好きな子がいてね、女の子なんだけどめちゃくちゃ詳しくて毎日戦隊ヒーローについて熱弁されてたよ」

「ははは、戦隊ヒーローには老若男女問わず魅力がありますからね」

「潤之介くんは、戦隊ものに出るのを目指して役者をやってるの?」

「まあ、そんな感じっす。昔、施設でよく戦隊ものを観ていて、それでかっこいいなって。……って、そういえば、俺が昔施設にいたことも初耳っすよね」

「ええっとね、それだけはお兄さんから聞いちゃったんだ。ごめんね、勝手に知っちゃって」

「いえいえ、いいんすよ。ちょっと重い話なんでどう切り出したらいいかわかんなくてちょうどよかったっす」


 潤之介くんはドリンクバーで注いできた炭酸水を口にする。身体づくりのため、糖分の多い甘い飲み物は控えているのだとか。ストイックだ。


「俺がまだ小学校に入る前っすかね、両親が事故で亡くなったんすよ。そんでうちの両親どうやら駆け落ち結婚だったみたいで、身寄りもなくて、兄貴と一緒に施設で暮らすことになったんすよね」

「そんな小さいときに……大変だったでしょ」

「まあ、大変さが感じられないくらいの喪失感でしたね。誰とも遊ぶ気しないし、テレビなんて観たくないし、なんでヒーローは父さんと母さんを助けてくれなかったんだろうって、当時はむしろヒーローなんて嫌いで、八つ当たりしてたっす」

「そうなの? じゃあどうしてヒーローを好きになったの?」

「ちょっと話すと長くなるんすけど、いいっすか?」

「うん、もちろんいいよ。潤之介くんのそういう話、ちゃんと聞いておきたい」


 ちょうどそのタイミングで料理が運ばれてきた。

 私はミラノ式ドリアの温玉のせ、潤之介くんはペンネアラビアータ。彼は激辛マニアとまではいかないけれど、少々辛いものが好みなようだ。そういえば先日の海鮮チゲ鍋も喜んで食べていた。次になにか作る時は、ピリ辛を意識してみてもいいかもしれない。


「――いただきます」

「いただきます」


 潤之介くんは食事の前、必ず両手を合わせて「いただきます」と言ってから食べ始める。

 これも、施設で育ったがゆえの習慣なのだろうか。


「んー、久しぶりにここのドリアを食べたけど、安定の美味しさだね。温玉のとろとろの黄身とミートソースが合うし、なんといってもこれで四百円しないっていうのがすごいよね」

「す、すみません、そんなに高いお店じゃなくて……」

「いいのいいの、そんな値段のことを言ったら私の作る料理だって大した事ないし。美味しいのが一番いいんだよ」

「いやいや、果穂さんのごはんはなんというか、お金に替えられないというか……」

「ふふっ、ありがとう。そう言ってくれるだけで作りがいがあるよ」


 いつもなら「そんなことない」とか言ってちょっと自分を卑下したりする。

 でも、彼からそんなことは言わないでほしいとお願いされてから、私は少しだけ自分を褒めるように心がけてみた。

 不思議と、それだけの違いなのに心の温かさというか、気持ちの余裕というか、そういうところに差が出でくる気がする。

 病は気から……とはちょっと違うけど、気の持ちようというのは結構大切なのかもしれない。


 追加で注文した料理も届き始めた。

 大人気メニューのスパイシーチキン、ガルムソースのかかった焼きムール貝、それとミニフォカッチャ。

 これだけ頼んでもドリンクバーを入れて二千円くらいに収まってしまうのだから、その裏には涙ぐましい企業努力があるのだろうなと思う。

 自分でこれだけ作ろうと思ったら、絶対に二千円じゃ無理だもの。


 たまにはこういう食卓を囲うのも悪くはない。


「ごめんごめん、そういえば潤之介くんの話の途中だったよね」

「いいんすか? 長い昔話になっちゃうんすけど」

「いいよ、こういうときじゃないとゆっくり話せないと思うし」


 潤之介くんは、それもそうっすねと言って後頭部を軽く掻く。

 一旦深呼吸をしたあと、彼は昔話を始めた。

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