第10話
侍女がてきぱきとした手つきで夕食の皿を下げ、出て行くと、部屋にはショルカとアムアの二人が残された。
「さて、ここからは真面目な話です」
真剣な口調のアムアの声を聴き、ショルカは食卓の椅子の上で姿勢を正した。
「レラ国へ、救援物資を贈る話。ある程度の物資を集められたら、私が出向いて届けます」
「アムアが、行くのか」
驚きを隠せない王に、側近は言葉を続ける。
「陛下も感じている通り、レラ国は今非常に危うい状態です。一介の従者に届けされるのは、あまりに不用心ですから。それにルタ国王の気性も、理解している者でないと。下手なことを言って、開戦を決意させてはいけないし」
アムアは異論は認めないと言うように、ぴしゃりと言い放った。
ショルカは俯き、しばし考え込んだ後、顔を上げて尋ねる。
「・・・私も、行ったら駄目か?」
「駄目です」
即答だった。あまりにも早い返事に、ショルカは言葉を失う。
「聞いていましたか?今、レラ国に行くのは危険なんです。国王が挑発的な上、戦争を勝利で終えたばかりときている。行けば、命を狙われるかもしれない」
「だから、私が。国を代表して、王の私が行く」
「お飾りの王は、黙っててください」
ほとんど怒鳴るような声で、アムアが言った。
悲しみ、怒り、絶望。私は今、何を感じるべきなのだろうと、ショルカは思った。自分はあまりにも、無知で無力だ。
「・・・私は、馬鹿だ」
若き王は呟く。自虐ではなく、心底そう思う。やつれた様子のレラ国の者たちを見て、物資を贈るなんて浅い考えだった。そのために犠牲が払われることを、考えていなかった。アムアが全て、それを被るのだ。
ショルカの父は王子だったが、庶民の女性と恋に落ち、駆け落ちして城から逃げた。愛する父が恥ずべき存在と呼ばれている豪奢な城の片隅で、ショルカはひっそりと生きてきた。優しくしてくれる者たち
王の血縁の者であるという理由のもと、あまりにも自由の無い生活が続き、ショルカは不信感を覚え始める。自分は何かのために、利用されるのではないか。気のせいであると良い、そう願っていたけれど、良くない予感は的中した。
祖父であった先王の急死により、ショルカは思いがけず王として担ぎ出された。恐れ、震えるショルカに、アムアが言った。
「あなたは、ただの飾りです。怖がることはない」
何と反応してよいかわからずにいるショルカに、優しい面差しの側近は言葉を続けた。
「王子が成長するまでです。あなたはそれまで、耐えてください。大丈夫、私に任せて」
王子―――アムアがそう呼ぶその人は、まだ三歳になったばかりの先王の息子だ。
ショルカの父が駆け落ちしてすぐ、その母である后は亡くなった。時が過ぎ、年老いた先王は若い后を迎える。彼女は間もなく男の子を生み、先王はその子をこの国唯一の王子と呼んだ。
自分は、父は、一体何者なんだろう。ショルカは問い続けている。王として即位した、今もなお。
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