第6話 生き物面白い

体育祭。

目立つこともなく、うまく埋没できた日。

このイベントは、校内全体の催しな訳で。


「笑ってる」

「んぁ?」

「なんでもない」

遠く、グラウンドの反対側から聞こえて来たいつもの笑い声。

全校生徒のざわめきを貫通してきた声に、なんだか安心した。

そして安堵した自分に怒りが湧いた。

いや、勝手になにかを見た気になって勝手に安心して馬鹿か。

そもそも俺は何にも関係ないし。

きもっ、俺きもっ。

「俺きもっ」

「お?なんだ?自虐か?お前はもうねー」

あ、やばい。友人のスイッチが入った。俺が自虐的な事を言うとこいつのなにかに触れるのか、怒り出すのだ。

「自己肯定は大事だっていつも言ってるだろ。あのな何で大事なのかまだ分かってないのか。本当にお前は」

これ止まらないのよ。謝っても終わらないし。

なんだかなー。


おお、足速い。

先日気付いた事実。いや、真実?

あの子は笑っている以外の状態もある。

それが新鮮に感じる。

足速い。1位取ってる。すごい汗だくのまま友達にVサインしてる。なんだろう妙に運動会系。そんな感じに見えないけど勝負事にムキになるのかな。

落ち着いて観察してみたら、表情コロコロ変わる。

笑ってない。怒ってる。真剣な顔してる。でも、また笑ってる。

なんか面白い。

動きがいちいち大きい。手振りすごい。

グラウンドの反対側にいて遠いのに、動きがわちゃわちゃしてるのがすごい分かる。


なんだろう。あの生き物面白い。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る