第5話 笑っていない

「成長期男子にヘルシー食はやめていただきたい」

家族のダイエットにより、晩飯がカロリー控えめだった。ダイエットは自由だが、巻き込むのはぜひともご遠慮いただきたい。

というわけで、近所のコンビニまで散歩となった。

我、揚げ物を要望する。しかし、3分で桃源郷へ誘うヌードルも捨てがたい。いや、金額を考えるともう少し足を伸ばしてビーフボールぅ!を食らうのもありでは無いだろうか。


 真剣に考えながら川沿いを歩いていると、ベンチに人影が合った。

 お嬢さん、女性が夜にひとりでいるものではありませんよ。そんなことを思いながら、もちろん実際に声をかけることなどない。それでは、自分が変質者になってしまう。


 後ろを通り過ぎて、コンビニへ向かった。

「コーラうまぁー」

そんな声が少し遠く背後から聞こえてきた。



 肉まんに揚げチキンっ!そしてコーラを無事手に入れた帰り道。

「おお。気付いてなかったわ。今日は満月か」

どうやら行きは背中側にあった模様。

「綺麗ですなー」

月見を洒落込んでベンチで食らうのもありかもしれない。そう思ったら、行きに見た女性がまだ同じ位置にいた。

お嬢さん、女性が夜にひとりでいるものではありませんよ。そんなことを思いながら、月明かりに浮かぶ女性を見ると見覚えがあった。

あの子だ。

片手にペットボトルを持って、月を見上げている。

その姿にふと足を止めた。

なんだか違和感があるな。

制服ではなく、私服だから?

いや、そこではない。

なんだろう。

ああ、そうか。笑っていない。

笑っていないあの子を見たのは初めてだった。

それは当然のことなのだけど。誰も常に笑い続けてなどいないのだけど。

彼女を注目する時はいつも笑い転げてる時だった。

違和感が解消されたことで、俺はまた歩き出した。

気付かれない程度には距離がある。そのまま背後を通りすぎる。

だから、それは多分見間違い。


満月の月明かりだけで、そんなもの見える訳がないのだ。

あの子の目元が濡れていたなんて事は。





 

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