第3話 認知した

「うぉっ」

近距離からの鼓膜を貫通するかのような笑い声。止まらない声。

自分の教室へ向かい廊下を歩いていたところ、すれ違った女子数名の中心辺りから音響兵器が放たれた。

嘘。

そんな不快な音ではない。

隣の友人が笑う。

「いつものあの笑い声、あの子なんだな」

「あー」

少し着崩した制服に明るい色の髪。細かいことは分からないけど、おしゃれな雰囲気の女子がいた。

笑いが止められないのか、苦しそうに笑い続けている。

「もー、倉橋。わたしゃ恥ずかしいよ」

「ひーひー、だって、ひぃ、止まらないんだよ」

もうだめ、死ぬぅ、と言いながら笑いが続いている。

こっち来なさい、と彼女の隣の子が自分たちの教室に引っ張り込む。

それでも開いたままの扉を通って、笑い声は続いていた。

「楽しそうでなにより」

「だからなんだよその感想」

友人の言葉を聴きながら、なんかこっちまでつられてしまって笑いそうになる。

あれだな、箸が転がってもおかしい年頃ってやつだな。うん、この感想は年寄り臭いな。


どこかの誰かの笑い声が、あの子の笑い声だと認知した。

それからは笑い声が聞こえてくる度に、あの子が笑っているのだなと顔が浮かぶようになった。

連想記憶ってやつだな。うん、違うか。



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