第18話 ストライキ
"調査・公安の
「先生……何それ……」
「
「スト……?」
「簡単に言えば『仕事しません』って事だな……よし、出来た」
「えぇ……」
ネロとわんこは言葉の意味が分からないようで揃って困ったような呆れたような顔をしている。調査と公安に拒否を宣言した日の夜、ロディネは部屋で工作をしていた。とは言っても厚紙を身分証と同じ大きさに切って赤と黒で結婚式の招待状のように敢えて万年筆で綺麗な字を書いているだけではあるが。自分とコルノとアマリアの分を書いて乾かすために机の上に並べた。
「じゃあ次はビアンカの分を……」
「ビアンカ先生は番人ですよね?」
「文言は変えるよ」
そう言って続けてロディネは "調査・公安お断り! 近づくな!! "と書いていく。
「……子どものケンカ……?」
「……言っとくけど俺が考えたんじゃなくてビアンカからの文言指定だからな?」
ネロはどっちもどっちだと言わんばかりの顔をして、口を開きかけて閉じた。犬は若干間に合ってなくて「ぅぉふっ」と鳴いてしまい、顔をキリッとさせて誤魔化している。
「言いたいことがあるならいいたまえ」
「はあ……あの、公安……制御課? の人が俺達を黙って囮にしたっていうのは先生が言ってたから分かるんですけど、一応理由があったんですよね。何でそこまで怒っているんですか?」
目薬をさしたネロが、色付き眼鏡を掛けながら疑問を口にする。ネロは医者による精密検査の結果、目に問題はなかったが1週間ほど念のため目薬をさして薄い色付き眼鏡を掛けること、就寝時はアイマスクをする等の指示が出ている。正直子どもに色付き眼鏡は違和感の塊だ。似合う似合わないの問題ではないけれど、本当に似合っていない。
「逆に聞くけどネロは怒ってないのか?」
「死んでたかもしれないし怒ってます。けど……先生達が怒っているのは、またちょっと違う気がするので」
おっしゃる通り、私情が入っていないと言えば嘘になる。でも今回の元々にあった訓練生を囮にする作戦自体は、よくはないが、他にいい方法がないなら昼に課長が言っていた通り、子ども達の安全を確保して協力した。一般人やそれに近い部分覚醒者なんかを囮にするよりはマシだし、食いつく可能性が高いのはロディネも理解できる。
「最近はそんなことないんだけどな」と前置きして、昔は今回のネロ達みたいに何も知らされずに囮にされたり明らかに格上の相手を宛がわれて残念な事になった子もいたという事をロディネは説明した。
「拐われた子だって多分いる……だからそういった事がないようにって今の番人や導き手の訓練は教育計画が組まれてるんだけど、今回のはそれを無視した行いで、訓練生が犠牲になる可能性があった。だから教務のみんなは怒ってるんだ」
「そうなんだ……」
「そう。さ、目薬もさしたしそろそろ時間だ。寝ようか」
「はい」
流石にアイマスクをして物理的に視界が奪われるのは怖いようだし、実際うなされている。なのでロディネは山から帰ってからは導きながらネロと一緒に眠っていた。ベッドに腰掛けたネロにアイマスクをつけて横にさせ、ロディネもその隣に寝転がってそっと手を繋いだ。
(でもな、調査や公安は悪いところじゃないってのは覚えておいて欲しい。むしろアニマリートを体を張って第一線で護ってる。1番矢面に立つ部署でみんな誇りを持って仕事をしている)
(それは分かります。最初に俺を助けて塔に連れてきてくれたのは、公安の人達だ)
分かってくれているのならありがたい。ネロは結構大人だなと思いながら、ロディネは話を続けた。
(んで、こんな事があったあとにこう言うのもなんだけど、ネロは正直公安向きだ。番人としての能力も高いし運動神経もいい。勉強が嫌いならなおのこと1番の進路として俺はオススメする。給料も高いしな)
危険手当と出張日当、夜間手当とか手当関係だけで、内勤の1月分以上の給料になるから……。当然基本給は別である。
(どうするかを決めるのはネロの人生だし、ネロの自由だ。勉強は嫌いかもしれないけど出来るわけだし、絵も上手いし……出来ることは色々、たくさんある。今言ってるのは単純に、せっかくだから能力を生かした仕事をした方がいいってだけで、究極、全然番人の能力関係ない仕事したって別にいいし)
(給料……進路……)
(早めに決めた方が有利ではあるけど、あと2年ちょいあるからしっかり考えな。相談には乗るし、一緒に考えるから)
(はい。ありがとうございます)
(俺はちゃんとここにいるから。ゆっくりおやすみ)
(はい、おやすみなさい……せんせい)
おやすみなさいと言ったネロは、あっという間に寝息をたて始める。その穏やかな寝息を聴きながらロディネもまた目を閉じて眠りにつく。
ストライキを宣言した次の日の午後、ロディネは課長に言われて管制長の部屋に足を運んでいた。
「失礼します」と言って足を踏み入れると、苦笑いする管制長と、執務机の隣に立って呆れたように眉間に皺を寄せたレオナルドの姿が見えた。
「お前……その名札は流石に……」
「ストライキの件は聞いているし、ある程度は構わんが、それは流石にやめなさい。まさか、コルノとアマリアまで……?」
「いや、流石に断られました。身につけてるのは俺とビアンカだけです。文言も違うし」
「当たり前だ」
「よかった。即刻やめてくれ」
ドン引きしているレオナルドと管制長に言われ、ロディネは渋々身分証の裏に入れていた"調査・公安の
「絵は下手くそなくせに、相変わらず字は綺麗だな」
「うるせえ」
カチンときた俺はレオナルドの膝小僧を蹴っ飛ばした。上手く泣き所に入ったらしく、ちょっと顔を歪めている。ざまあみろ。
「ていうかやっぱお前、管制長の指示であそこにいたのか。言えよ」
「私の指示だから、そう怒らないでやってくれ。グリーディオがアニマリート内で暗躍しているのは事実だし、国や一般の公安からも協力要請がきているから、ある程度は仕方ない部分はある。あるのだが……」
うーん。部長に言われてそのまま動いたのか管制長の指示かどっちかなと思ってたけど、管制長の指示だったのか。特務は公安だけど管制長直下だからな。
「部長ですか」
「ああ。最近先輩……管制部長の行動は目に余るものがある」
「他にも何かあるんですね。委細承知です」
まあ何か事情があるのなら、納得せざるを得ない部分ではあるか。
だけどロディネはどうしてもひとつ納得できないことがある。
「なあレオナルド。あの時何でもっと早くどうにかできなかった? ネロとエルンストがあそこまで抵抗出来たから良かったものの、それが出来なかったら確実に拐われてた」
より深い
「導き途中で攻撃を受けたイレーネとエルンストもそうだし、ネロだって最悪、領域崩壊で死んでたかもしれない。お前がきちんとしてればあんな事態にはならなかっただろうが」
「……悪い。あまり変な行動をし過ぎるのも他の奴らに不審がられてしまうと後手に回った」
本当か……?
レオナルドはたまにポカをすることもあるが、表情もあまり変わらないし相当な期間を一緒に過ごしたのに、ビアンカと違って何を考えているかイマイチ分からない。
「こういう作戦に乗るのなら、もっとしっかりしてくれ。俺は昔みたいな思いはしたくないし、誰かがそれで犠牲になるのも嫌だ」
知らないとは言わせない、分かってるだろうと、目の前の番人を睨み上げる。ロディネもそこそこ背があるのに、レオナルドはさらに背が高いので、ただでさえ崩れない表情がなおのこと分かりにくい。
「……分かってる」
「どうだか」
アニマリートの象徴である獅子を魂獣に持つ、幼馴染の
睨むのを止めてもじっと観ることを止めずにいると、管制長がこほんと咳払いをした。
「ロディネ、私も部長に気付かれない程度にはもう少し注意する。訓練生達を危険に晒すようなことはもうないように段取りするから、今回は溜飲を下げてくれ」
「……分かりました。でも次からは俺とビアンカには情報をくれることを約束してください。俺達だって以前は特務にいたんだから秘密は守ります」
「分かった。課長にもそのように言っておく」
あと公安の導きは緊急時以外しないストライキはしばらくやりますよと伝えるとそれは構わないとのことだ。
なら導き以外は平常運転に戻すか。
ロディネは渋々は一旦振り上げた拳を隠したのだった。
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