第十四話 征討

 

 リキの進撃を見て取ったグイド、ガラム両将率いる各七百騎も連携して三方から包囲挟撃するために進撃を開始した。彼らの率いるのも、速さが売りの軽騎兵である。三つの軍は速度を最大の武器に、集団でガレアッツォ侯の本陣を急襲し翻弄した。敵陣に切り込むや、一気に駆け抜けては敵兵を撹乱し、追撃に移ろうとする兵たちを逆に後方から襲い掛かった。敵本陣は瞬く間に混乱に陥った。


「何だ!! 何が起こったぁ!?」


 ガレアッツォ侯は混乱して右往左往する自軍の副官に問うた。しかし、この副官のパトリツィオも戦には不慣れで、自軍の主力が国王軍を追撃しているので、勝ち戦だと思っていたのである。ところが、まさか、このような襲撃があろうとは夢にも思わず、


「敵の襲撃です!! 敵がっ!!」


と返すしかなかった。出来ることと言えば、パトリツィオは副官としてガレアッツォ侯を馬に乗せ、近衛兵を指揮して伯爵を護るので精一杯であった。彼はこの状況を鑑み、あとは無事に退却することが出来れば――との判断に至った。


「ご主君!! 退却のご命令をっ!!」

「何ぃ!! 踏みとどまれっ!」


 副官パトリツィオの注進に、ガレアッツォ侯は反発した。彼は王家に連なる者である。王家の者が、戦で退却するなど以ての外――。

 彼には彼なりのプライドがあった。


「このままでは、ご主君を護ることもままなりません‼ ここは退却のご命令をっ!!」

「……‼ ええい、分かった‼ 退却せいっ‼ 退却だっ……」


 パトリツィオの度重なる進言にガレアッツォ侯も退却を決したが、混乱するガレアッツォ侯軍の中では主君の命令も十分には伝わらず、右往左往する自軍の兵たちに行く手を阻まれて、進退窮まってしまった。


 疑心暗鬼に陥り、旗幟を鮮明にすることもなく、本陣を援けることも出来ずに様子見に徹していた左右両翼の各一千騎は、混乱するガレアッツォ侯本陣を見限り、リキ軍に加勢するように自軍本陣に攻め掛かった。リキが流した流言――国王軍に味方をすれば、本領を安堵される――を信じ、今ならば、まだ間に合うと考えたのである。実に自分本位の考え方であるが、そう仕向けたのはリキだった。

 ここにリキ軍の二千、そして、自軍であった両翼の二千騎に攻め掛かられたガレアッツォ侯は完全に包囲され、退却もままならないうちに、乱戦の中で副官パトリツィオ共々討ち死にしたのである。

 

 その後、ガレアッツォ侯の主力を撃破した国王軍と合流したリキ軍は、ガレアッツォ侯の本城を包囲した。

 ガレアッツォ侯の城は町自体を高い城壁で囲い込んでいた。この城を力攻めにしたのでは多くの兵を失うことになり得策ではないと考えたリキは、城を包囲し続けて圧力を掛けた。

 昼には恐怖心を煽るために兵たちに声を上げさせ、夜には篝火を焚き続け、いつ攻撃が始まるのかと城民を怯えさせて城内を揺さぶり、降伏勧告を何度も送った。降伏勧告は、投降すれば、一般の兵士や民間人の命は保証する――という内容であった。

 一方でリキは、兵力をより多く見せかけるため、多数の旗指物を並べ立て、城兵が討って出て来れない状況を作り出し、その隙に六千余騎から二千を割いて、主君を失って連携を欠く支城を各個、攻略していった。支城を落とすごとに、支城陥落の報を本城へと流した。


 自軍戦力のほとんどを失い、どこの支城からも援軍を期待出来ないことを知った城は早々に士気を喪失、あっけなく投降、開城した。戦が始まってから、僅か一週間のことであった。


 こうして、リキはガレアッツォ侯の討伐を成し遂げたのである。



 

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