第十五話 凱旋
ガレアッツォ侯の討伐を終えたリキは、侯爵領内での治安の維持を徹底させた。
主な禁令は三つ。暴行――特に女性への暴行、窃盗、殺人であった。これらは厳罰に処し、斬首にする――との布告を発した。
それでも、七件の暴行、十一件の窃盗、五件の殺人が発生。リキはその全ての案件を斬首に値するとして処断し、刑を執行した。その中には、国王軍として従軍した領主の重臣の子息が含まれていたが、リキは厳然たる処分としてこれを斬首にした。
後に、リキが国王アンジェロに討伐の経過を報告するために王都に赴いた際、これが問題となった。
余所者でありながら成り上がってきたリキを邪魔者と考え、追い落とそうと画策する貴族たちは多い。この事件を機に、越権行為としてリキを糾弾し問い詰めようとしたのである。
しかし、リキは毅然とした態度で処断した貴族子息の悪行を
「国王軍はアンジェロ陛下の代理として派遣された軍である。この軍の評判を落とす行為は、陛下を貶める、許されざる行為である。自分は陛下の勅命によって任ぜられた大将の権限を以って、これを処断した次第である。この処断を批判することは、国王陛下を批判するに等しいが、その覚悟がお有りか?」
と、何ら
リキの剣幕に
その一件は自領に戻った後のことであるが、それはともかく、リキは治安の維持――否、向上に成功したと言って良かった。ガレアッツォ侯の統治時よりも治安は向上し、民衆はこれを受け入れ、支持したのである。
その他の細々とした事後処理はファビアーニ卿に任せて帰路に就いた。リキは討伐軍の大将ではあったが元々、国王軍としての討伐であったから、様々な決定権を持つのは国王軍を指揮する立場のファビアーニ卿にあり、後を委ねたのだ。
穏やかに晴れ渡った蒼天の下、吹き抜ける風が心地良かった。広々とした草原をただ一本の街道がどこまでも続いているように見える。
自領への戻る途上の街道で、ゆるゆると馬上で揺られながら、リキは興味を持って、自身と同様に馬に揺られている陽菜に聞いてみた。
「で、どうだった? 陽菜。戦に付いてきて」
「えっ、どう……とは?」
「おや。余程、恐ろしかったと見えるな」
「な、何でですかっ!?」
「ん。視線が定まっておらんからさ。怖かったんだろうな……と。まあ、戦だからな。怖いのが当たり前だ」
「当たり前……ですか」
「そうさ。それが当たり前だ。戦なんざ、無いに越したことはないんだから」
心の内を隠そうとした陽菜であったが、いとも簡単にリキは陽菜の内心を見透かしたように言う。動揺したことを誤魔化そうと照れ隠しに問い返したりする陽菜を、リキは諭すように、それが普通だと言って聞かせた。その傍にはクレアもいて、穏やかな微笑を浮かべて二人のやり取りを見ていた。
「特に、俺たちのいた日本は平和だったからな。あの時代に、戦争なんか思いもよらなかっただろ?」
「はい……」
「世界全体で見たら、何処かしらでは戦争――いや、紛争かな。紛争くらいはいつもあったがな。でも、日本に住んでる自分が捲き込まれるなんて、普通は思わんだろ」
「そうですね」
「ところが、ここじゃあ、生きるために戦う――なんてことが普通に起きる。問題解決の手段として、戦をする。自分たちの領地を拡大しようとして、戦をする。日本で言やあ、〝戦国時代〟だ。力のない者にとっては理不尽なこと、この上ない。堪ったもんじゃないけどな」
「……」
「ここは、そんなところだからさ。陽菜が無理して、死地に飛び込むようなことをする必要はないんだ。じっくりと考えて、それでも何かをしたい――と思ったら、その時はまた行動すればいい」
「分かりました」
「ん」
真面目に返答する陽菜を、リキは保護者のように微笑み、頷いた。
「あ、それから、一つだけ聞きたかったんですけど……」
ふと、何かを思い出したのか、陽菜がリキに問い掛けた。
「ん?」
「リキさんは、鉄砲とか、火薬は使わないんですか?」
「ああ、火薬か……。あれはダメだ。人が死に過ぎる」
「え?」
「あれは簡単に、人が死に過ぎるんだよ。この世界の者が発明したら、仕方ないけどな。余所者が、一足飛びに異世界の知識を持ち込むのは、違う――と俺は思ってるんだ。特に、銃や火薬は死者が激増するから」
「よく、分かりません」
「まあ、今はそれでいいよ」
リキは、今はまだ無理に理解しなくてもいい――と陽菜に言った。
「追々、分かるようになるさ」
何か思うところがあるのだろう。陽菜は少し不満気であったが、そう言って、リキはその話を打ち切った。
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