第十二話 開戦

 

 翌日リキは、ガレアッツォ侯に使者を立てた。アンジェラの意向を伝えるためである。

 もっとも、リキは使者が追い返されてくると確信していた。アンジェラの要求が無理難題であったからだ。その内容とは、領地と財産の没収、さらに地位の剥奪。全てが奪われるこの要求に、ガレアッツォ侯が従わないことは、交渉以前に明白であった。

 案の定、使者はけんもほろろに追い返されてきた。


「役目、大儀であった。よく休め」


とリキは、成立し得ない交渉に出向かせた使者を労った。


 それから昼前までに、リキたちは布陣を完了した。こちらの兵数がほぼ同数なら、国王の親族であるにも係わらず虚仮こけにされて、怒りに駆られたガレアッツォ侯はきっと出て来る――とリキは見ていた。


 ガレアッツォ侯領内のフラムーラ平野に、王直属軍を半分に分け、千騎と各領主たちの三千騎と合わせた四千余騎を正面に展開させた。さらに王直属軍の残り千騎を半数に分け、リキ軍からの二百騎ずつと合わせて各七百余騎とし、リキ軍の二枚看板であるガラムと、彼に並ぶ猛将のグイドに率いさせ、リキ自身もクレアと共に残り六百騎を率いて、三つの部隊を遊軍を兼ねた伏兵とした。


 また、領内に間者を数日前から放っており、ガレアッツォ侯の家臣団に誘降を働きかけて、その結束を揺さぶった。誰彼は既に裏切っているだの、誰それは土壇場で国王軍に付くらしい――だのと疑心暗鬼に陥るような流言を流したのだ。家臣の筆跡を真似させた、内応を約束した誓書をわざと城下に落としてくるように指示するなど、それはもう念入りにだ。

 さらに、今のうちに投降すれば、所領は安堵されるとの噂もばら撒いた。その上で、国王自身の出馬があるらしい――と匂わせることで、投降するかどうかを迷っている家臣たちの焦りを掻き立てた。王が出馬してからの投降では遅い――と思い込ませるためである。しかも、フラムーラ平野に布陣したリキたちと対峙している隙に、城を攻める――との情報まで飛び交った。ガレアッツォ侯の家臣団は浮足立ち、動揺した。

 最早、布陣した際に、隣になった味方の誰を信じて良いのか、定かならぬ状態となったのだ。


 フラムーラ平野に入るには手前の河を渡る必要があるが、輜重隊を除く全軍が橋を渡り終えると、リキは橋を焼き落とさせ、退路を断った。背水の陣を敷き、味方にも追い込みを掛けて、奮起を促すためである。

 もう逃げ場はない。生き残りたければ、勝つしかないのだ。

 リキは今、打てるだけの策を打った。戦の準備は整った。


 ガレアッツォ侯の陣営が布陣を開始したのは夕刻近く。

 国王軍の正面に、中央に三千騎の兵を集中させ、両翼に各一千騎を配した陣を張った。ガレアッツォ侯自身は千騎を率いて、少し離れた後方に控える形であった。


 

 中央に展開していたリキ軍の王直属軍の将帥ファビアーニ卿が剣を掲げ、


「掛かれぇっ!!」


と、突撃の号令を発した。

 翌朝、夜明けを待ち、国王軍は攻撃を開始した――。



 

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