第十一話 不穏分子
ガレアッツォ侯はアンジェラの忠告を無視し、言動を慎むどころか、自分が国王に取って代わるかのように周囲に触れ込んでいた。結局、ガレアッツォ侯は征討される対象者となってしまったのである。
ガレアッツォ侯討つべし――という〝勅〟が発せられた。
王の勅命によるこの遠征で、リキが率いるのは千騎の他に、輜重隊三百人余、その守備に歩兵百人余の約千四百人。領内の警備にも兵を割かねばならないので、これが限度であった。これでも無理をしているのである。
ガレアッツォ侯領に向かう途上に王直属の二千騎と合流する手筈になっており、それ以外の領主たちも各々、合流する予定になっている。その数、合わせて六千余騎。
対するガレアッツォ侯は何と言ってもアンジェラの叔父である。その威勢は大きく、集めれば総兵力は一万騎にもなろう。しかし、こちらもご多分に漏れず、やはり領内の守備に兵を割く必要があった。ガレアッツォ侯は普段からの
そのため、動員出来るのはリキたち遠征軍と同程度の六千、多くても七千騎が限度と見られていた。兵力はほぼ同数。戦になれば、あとは士気や軍略次第といったところであった。
やがて、ガレアッツォ侯の領地付近で遠征軍は合流を終え、軍議と相成った。
だが、軍議は難航した。勅により遠征に参加したとは言え、戦に積極的でない領主たちも多く、領地の割に、たった二、三百人しか派兵しなかった貴族もいたのである。そのくせ、本人ではなく、代理の家臣を派遣していた。代理の家臣も主人の家柄をことさらに強調し、総大将に任命されたリキを、異邦人だから――と軽視する態度であった。
リキは大将の席の
「では、マンゾーニ卿は私の命令には従わぬ――と申されるのですな?」
マンゾーニ卿は主君の名代として騎兵三百を率いてきた、ペラガッロ卿の重臣であった。
「いかにも」
彼は主君の威を借りて、ぞんざいな態度を取っていた。
「たとえ勅を得ておっても、どこぞの馬の骨とも知れぬ者の命など聞けぬ」
彼は胸を反らし、リキを見下した。虚勢を張り、同調する者が出て来るのを待っているのだ。この遠征軍を瓦解させ、有名無実と化することで兵を温存し、無事に本国へと引き上げることを目的にしているのだろう――とリキは見た。
リキは傍に立つ偉丈夫を見上げた。護衛と称して侍っていたのは、リキ軍において勇将、猛将と評されているガラムである。彼は無言で頷き、一歩前に出るや、怪訝な顔をするマンゾーニ卿を一刀の下に切り捨てた。マンゾーニ卿は断末魔の声さえ上げられずに、地に伏した。
騒然となった軍議の場で、リキはアンジェラに発給させた書状を掲げた。それには、大将であるリキに全権を委任する旨のことが記されていた。
リキは高らかに声を上げた。
「私は国王陛下に、遠征軍の大将に勅命を以って任命された! その私の命に従わぬとあれば、軍規に則り処罰する。よいな!」
「は……、ははっ!」
突然の出来事とリキの宣言に、諸将は皆、平伏した。ここにリキは、完全に軍議の場を掌握したのである。
以後は殊の外、スムーズに進行し、軍議は終了した。
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