第九話 領地
子爵となったリキには、新たな領地が与えられた。もっとも、リキたちが憂慮していた通り、それは転封という形で――であった。
今までの領地は隣の大貴族、デルミーニオ卿の領地に組み入れられることになった。
この件については、家臣の中には憤る者たちも多かった。
この二年の間にリキは、領内の治水問題に時間を掛けて整備を進めてきたのである。半年ほど前にやっと河川の増水対策、耕作地への用水路の整備が完了し、これからの収穫に期待が持てるようになったばかりであった。それを見計らったような転封である。
しかも、隣接する領地を持つデルミーニオ卿は、治水政策の完了が見え始めた頃から、この地を欲していた。それまでは、難儀な土地だ――と公言して憚らなかったのに、だ。
だから、デルミーニオ卿が国王陛下に働き掛けて、領地を奪ったのだ――とする家臣たちの主張も一理あった。国王の仕打ちに、異議を唱える声も上がったのだ。
だが、リキは、
「また、やり直せば良い」
と、憤る家臣を宥めた。家臣の幾人かは、不承不承ながら納得した。
新たに与えられた土地は〝アスーコリ〟というところで、リキたちは転封の準備に追われた。王都にあるこの館はそのまま残すことになり、リキは陽菜に、一緒にアスーコリに行くのも、ここに残るのも自由だと告げた。
陽菜はリキたちと一緒に行くことを選択した。
一週間後、リキたちは主だった家臣らと、自領から新領地のアスーコリに赴いた。王都から四日の道程で、一行は道中も大事なく、無事にアスーコリに到着した。
到着後、しばらくはアスーコリの税収や歳出、治安状況などを調べたりしていたが、前領主ロヴィーノ卿の杜撰な領国統治の実態に、皆が唖然とし、また憤慨した。例えば、領内の税収も高いように見えて、実際には収穫量が少なく、税率を高くすることで、実質の収入を増やしているだけであった。
その他、統治の不都合は全て領民にしわ寄せが行っており、結果として領民の不満は高かった。
リキが赴任した当初の領民の期待感の無さは、それらが発端になっていたのだ。
そこでリキは、先ずは税率を妥当なもの――四公六民に下げた。
その代わりに、領民自身の生活に関わる労役は増やした。例えば、治水対策や新たな耕作地の開拓、区画や道の整備、城壁の修理など、領民も労役をすれば、自分たちの暮らしが楽になる――と思えるものである。そのため、領民も進んで従事した。
これらの差配は、
半年後には軍勢催促がある予定である。千騎もの兵を出すには、早急に財政を立て直す必要があった。軍事費捻出のため、コジモは
塵も積もれば――というやつである。
次に、戦のない時期には兵たちにも耕作をさせる屯田制を採用した。兵糧を確保するためであった。今回は、半年の間に収穫出来る作物を重点的に植えさせた。次の軍勢催促の際に、
これらの施策で、ようやく出兵費用の目処が付いた頃、軍勢催促の書状が届いた。
リキの転封から、半年後の事であった。
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