第七話 覚悟
陽菜は顔を伏せ気味にして、まだ何事か思い詰めたように考え込んでいた。
「それで、リキ様。陛下とお話をされたとか……」
「ああ、それだ」
クレアが気遣ってか、場の空気を和らげようとしたのか、リキに話を振ってきた。リキも思い出したように手を打ち、話し始めた。
「明日くらいに詔勅が出るらしいが、俺が子爵になるそうだ」
「リキ様が子爵にですか?」
「うん。それに伴って、領地も増える」
「加増ですか?」
「そう言えば、それを聞くのを忘れた。加増なのか、転封なのか」
「リキ様……」
呆れ顔のクレアに、リキがしまった――といった顔で答えた。頭をぼりぼりと掻き、誤魔化すように笑った。
やれやれ――。
そんな
「まあ、明日分かるだろ。それで、陽菜」
「えっ⁉ はい」
リキとクレアのやり取りにも関わることもなく落ち込んでいた陽菜に、リキは突然声を掛けた。
「何でしょう?」
「うん。陽菜の今後の身の振り方だが……」
「あ……、はい」
「取り敢えずは、ここにいていい。ただ、俺も転封の可能性がある。そうなれば、引越しをすることになるし、ここも引き払うかも知れんが、その時はどうする? 陛下にも話をしたから、
「えっ……と」
「まあ、すぐに――とは言わんから、考えといてくれ」
「はい……」
「ん」
リキは優しく微笑み、頷いた。それから、
「もう、聞くことはないか? クレアも」
「今はありません」
クレアはきっぱりと言った。陽菜は惑ったようだ。それを見て、リキは、
「何も今、聞かにゃならんわけじゃない。何か思い付いたら、その時に聞けばいいさ」
「! はい」
その言葉で、ようやく陽菜は落ち着きを取り戻したようだった。
「それじゃあ、今日はお開きにしようか。あとは飯を食って、寝るだけだ」
と、リキは大袈裟に、疲れた――と伸びをして見せ、終わりを告げた。
「それでは、お食事の用意をさせましょう」
クレアも目礼し、席を立った。それから、陽菜に声を掛け、
「陽菜様。何か食べたい物はございますか?」
と、優しく問うた。
「えっ?」
「食べたい物です。何かありましたら、遠慮なく
「あ、いえ。ありません」
「では、少しばかりではありますが、馳走を用意させましょう。いつもより、ほんの少しだけ」
クレアが陽菜に優しく言い、退室した。夕餉の準備のためである。後にはリキと陽菜が残った。リキがこんな時にはどう言ったものか――と思案気だったが、やがて口を開いた。
「俺は、こんな時だから――といって、気休めになるようなことは言えない
「……」
陽菜はリキの言葉を黙って聞いていた。
「四年が経った今、俺はもう、この世界で骨を
「はい……」
消え入りそうな頼り無げな声で答える陽菜に、
「何度も念押しするようで悪いな」
と、リキは以前に見せた、すまなそうな顔でそう言った。
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