第3話

気付いたら着いていたというのが正しい自宅には、住みついて1年と4か月になる。玄関入ってすぐの電気を点ければ大体はこと足りた。トイレは共同。キッチンも共同。お風呂は備え付け。




……触れなかった。




ふとした絶望を背に、取り敢えず壁際から俺に火を入れろと云わんばかりにこちらを見つめてくるちゃちでかわいいテレビをつければ音が先に聞こえて、次に夕方のニュースが目に入った。



その上の壁掛け時計を目にして、早くも遅くもなく、ただそんな時間かと。



ちらと視線をテレビに戻して手を洗いにその場を離れれば、遠くで何処かの木造建築が火事になったとか、そういうニュースが報じられていた。




報道かー。


うちの会社も一応やってるんだよね。



曇った洗面所の鏡を見て、思う。




触れなかったな、うん。





「とっつき易い新人」を意識しすぎて意識しすぎた。




きれいになった濡れた手で、目元を擦ってうがいに取り掛かる。



ゴロゴロゴ、と、声を出した時だった。





「しろーー!!!!」





「!?」



幻聴とは思えないレベルの明瞭さで、部屋に響き渡った音量。



咄嗟に口内の水分を吐き出して顔を左右に振った。




口元垂れる水を拭いながら這いずるようによたよたと洗面所を出れば。





「おっ、お、すがたをあらわしたら!」





何故か頭から水を被り、肩に掛けられるだけといった様子の荷物を掛けて仁王立ちする、さっきサヨナラしたばかりの暴君様がいらっしゃったのだ。






「…………んふぇ?」

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