第2話

「し、ろ……」




帰路。歩みを進めつつ両手の平に視線を下ろすと、指の先まで震えていた。




今日は、内定を頂いた企業の研修初日だった。



昨日は、緊張で眠れなかった。


死ぬほど焦がれていた人達に会う。それ以上のことは何も考えないようにして目をきつく瞑ったって無駄だった。


心臓が、止まらない限り興奮も冷めやらない。




「はあ」



しろ、しろ。


何回も心の中で唱えては、緩みそうになる頬を押さえ。



拳骨で出来た瘤(こぶ)さえ消えないでくれと願う。




そういうわけで何度も小石や何もないところで躓きながら帰った。



6月下旬の、雨薫る夕方。

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