「いや、ぶっちゃけ済んでない」



半分笑って返すと湊も「だろーな」と少し笑って、歩み寄る。


玄関先に腰掛けた俺の隣に続いて腰掛け、「あれあの試合はねーよなぁ」と強めに吐き出した。



「……でもまぁ、そろそろ期末もあるし。

いい加減切り替えねーと」


我ながら思ってもなさそうなことを口にすると、すかさず湊が肩を当てて顔を覗き込んできた。



「紅騎の場合のそれは、『でもまぁ、純に見張られてるし』が正しいだろ」



「っおまえが純に見張っとけっつったんだろーが!」


多分何の気もない湊の茶化しに変な所で鳴る心臓。気付かないふりをして声を荒げた。



「で? その騎士様の癒しの純王子は何処に? 姫を迎えに行ったんじゃなかった?」


「騎士だの姫だのややこしいな……。純なら、

ん」



丁度来た道に視線を遣ると、遠ーくの方でぶれながらこちらに向かって来る点を見つけて指差す。


湊はギャハハと豪快に笑って「駿足の姫に置いて行かれてんじゃん王子」と楽しそうだ。



「ひ〜……。足が遅いって大変そうね」


「いいんだよ。純には俺らにはない立派な頭があるから」



「あーね。



期末終わったら、海行こーな」



「おー」



「ぜってぇ純も連れて」



「……ん」




真っ直ぐ見据えた先には、さっきまでの大雨を笑い話にするようなキラキラとした光が差していた。



きっとあと数十秒もすれば、息を切らして、でも絶対に歩かないで純が目の前に現れるだろう。




「純、着いたら何て言うかな〜。まずは『あれ、湊』だな」


「言いそう」


「次は? 紅騎予想」


「んー……。


『紅騎、ほんと足速くて良いなぁ』」



「それだわ」




——もう、“もし純がいなかったら”が想像できない。



ふと思わず笑みが溢れて、湊に「うわっ何びしょ濡れで笑ってんの……とうとう練習しすぎでぶっ壊れた?」と言われる。



純がいなかったら。



いなくても放っておけば雨は勝手に上がるし、晴れ間も覗く。


そんなことは知ってる。



でも、こんなに綺麗には見えなかったと思う。




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