そ、想像と、チガウ。
明らかに“何言ってんだこいつ”って眼で見られていて切ない。
「あっ……あーー、そうだよね! 紅騎は決して見せものとかでなくバスケの為に使う筋肉を育てているのに何言っているのだろうねぼかぁ! あはは、ごめん! いくら紅騎が高校生にしては厚みがあって均衡のとれた身体をしているからって」
ボクはますます何を言っているのだろうもう喋るな。
「格好良いって」
「はぇ!?」
「格好良いって。どういう意味?」
背を折り曲げて覗き込んでくる紅騎。が、真面目に訊いているのか揶揄っているのかも判断つかないくらいパニクっていた。
「どういう意味。とは、えーっと、その。ボクが紅騎みたいな身体つきになれることはにないだろうから……お、男らしいの、憧れるなぁ、みたいな。あぁ勿論日々の努力の賜物だってことは素人なりに理解はしているつもりの上で?」
小雨になってきた中公園を出る時早口で、目は泳いで言ったら紅騎は「ふ」と笑った。
覗かれて至近距離で含み笑いと目が合うと、「純はほっそいもんなー」と背を戻す。
良かった。“一緒にお風呂”を断ったの、変には思われてなさそう。
ドギマギしながらまた額に張り付いた前髪を拭うと、少し上から「ありがとな」と聞こえた。
「……どっかで歯止め効かなくなってたんだろーな。自分じゃ身体壊すまで止められなかった」
夏の俄雨は過ぎ去って、今の今まで空を覆っていた雲はすっかり薄く、陽の光を零していた。
その光は紅騎の髪の先に滴る雫に反射してキラキラ輝いている。
ボクはそれを眩しく感じつつ、紅騎はこちらじゃなく真っ直ぐ前を向いていたけど——頷いた。
歩む地面に這う湿気は生温い風に吹かれて、ふわりと舞い上がる。
紅騎の前髪を掬って、雫が落ちたのを見る。
「まさかあんな殺し文句で止められるとは思ってなかったけど」
「こ、殺し文句って。だって紅騎が本当に努力家だから。ボクはただ紅騎に我が儘言って、迎えに来ただけで」
「我が儘って……迎えに来てくれたじゃん、わざわざ雨の中」
紅騎がこっちを見て、目が合って、トンと肩が触れる。
「あーあ。にしてもびしょ濡れだな——純」
「ん?」
「競争するか、寮まで」
「え」
「したら服も早く乾くだろうし。風呂にも早く入れるし」
「いや、いやいやいや。紅騎とボクどれだけ足の速さ違うと思って」
勝負にならないよと止めようとするも、横断歩道の前で止まった紅騎は「あの信号が青になったら行くぞー。よー……い、ドンッ!」と駆け出した。
ひいいと口端から零れる悲鳴。バスケットボールを小脇に抱えているというのに紅騎の姿はあっという間に小さくなっていく。
改めて、足が速いって良いなぁ、電車も乗り遅れることなさそうだし、購買だって売り切れを見ることが減りそう。なんて羨ましく思いながら懸命に短い手足をバタつかせて紅騎の背中を追い掛けた。
【 SIDE TODOU 】
『 紅騎が一番頑張ってる 』
十六年と、数か月。少なくともその人生の中では初めて云われた言葉だった。
“一番”が至極立派な事だと感じたことはなかった。
誰に求められることもなかったから。誰も、“一番”の周りを漂う他の事の方が気になるようだったから。
家族は自分が誰と誰の子かを重要視しているようだったし周囲の同世代の一番は 好奇か皮肉、そのどちらかの視線を呼ぶものだった。
自分も含めた上での誰かが、自分の頑張りを一番だと認めた。
言われた。それが、
「あっつ……」
こんなに、身体の内側を擽るものだとは知らない。
寮に戻り、居た堪れなくなって距離を取ってしまった純をどうせならまたおぶって連れ帰れば良かったかと振り返った矢先、
「おい」
寮の玄関入口で声を掛けられる。
邪魔な前髪を上げてTシャツを手繰り寄せ、顔を拭いながら声がした方に、それが誰か粗方予想を付けつつ振り向くと、やっぱり。
仁王立ちした湊が顰めっ面でこっちを見ていた。
「気は済んだのかよ騎士様」
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