after 3 柔軟剤と“優しい”
「あっ」
その日の夜、寮に戻って今日の授業の復習をしていると部活とお風呂を終えた紅騎が戻ってきた。
「おかえり」
「ただいま?」
落ち着かない様子を見て不思議そう。相変わらずちゃんと髪を乾かしてこない紅騎はタオルを髪に掛けたまま手元を覗き込む。
「今日も国語?」
「うん。やっぱり文系が理解しきれてない気がして」
その時、ぽた、と紅騎から落ちてきた雫が教科書に染みを作った。
「っ悪い」
身を引く紅騎。「大丈夫だよ〜」と見上げる。
「今日貸してくれたジャージ、ありがとう。早めに洗って返すね」
「あぁ、夏は使わねーし別に洗わなくても——……いや?
おー」
否応?
言い掛けて止まって、若干天井を仰いでから、やっぱり洗うを受け容れた。変な紅騎。
「凄く良い香りだったんだけど、あれ何?
何か洗濯する時とか秘訣があったりする?」
「っ、ふつうに、柔軟剤くらいだ、けど」
紅騎は何故今顔を赤くしているのだろう。やっぱり変だ。
「ジュウナンザイ」
「そ。柔軟剤」
「……?」
「……。は? え、もしかして柔軟剤知らねーの」
今度はボクが赤くなって俯く番だった。
いつかは、というか今までも節々でボロが出ていたかもしれないが、紅騎がここまで嘘だろ? えっ本気で言ってんの? やばくねぇかこいつ、世間知らずすぎんだろ…の顔をしているということは、ジュウナンザイは皆が知っていて当たり前のものだ、きっと。どうしよう。
「飯」
「ぇ?」
「飯食ったら売店行くか、柔軟剤置いてあるから」
「紅騎……」
これが優しいでなければ、一体何だと云うのだろう。
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